ロヒンギャの人々とミャンマーでの迫害と差別 1
ロヒンギャは、ミャンマー西部ラカイン州に暮らす少数派の主にイスラム教徒の人々。人口は100万~200万人とも言われ、その多くがミャンマー西部にあるラカイン州で暮らしています。100以上の少数民族が住むミャンマーでは、特に国境周辺地域でこうした民族と政府との紛争が絶えません2。
過去数十年もの間、迫害や暴力がロヒンギャの人々を取り巻いてきました。
1962年、クーデターによって権力を奪取した軍事政権によりロヒンギャへの差別・抑圧が強まり、1978年以降、バングラデシュなどに逃れています。1982年に施行された改正国籍法(市民権法)では、バングラデシュから来た不法移民として国籍と市民権を剥奪されました。
以降、ロヒンギャへの差別・抑圧・社会的攻撃が次第に強まっていきます。キャンプに収容され、移動の自由を奪われ、教育や医療などの基本的人権も侵害されてきました。一方、反政府勢力とミャンマー政府との緊張・武力衝突も激化、それらが最高潮に達して起こった悲劇が2017年8月25日に端を発したミャンマー国軍によるロヒンギャの虐殺です。放火、銃殺、レイプなど、あらゆる暴力で1万人以上が殺害されたと推計されています。この日から70万人以上が国境を越え、バングラデシュへと逃れています。
現在、バングラデシュ南西部のコックスバザールに所在するキャンプには、旧来の難民を含めて計86万人以上が暮らしています。
©Arnaud Finistre
ロヒンギャとともに・・・世界の医療団の活動
世界最大の難民危機とも呼ばれたロヒンギャのバングラデシュへの流入直後の2017年9月、世界の医療団はキャンプでの診療を開始しました。緊急対応が一段落した2018年からは、医療を必要としながらもクリニックへ来ることができない人をアウトリーチ(訪問)し、医療につなげる活動を続けてきました。その後、難民のキャンプでの生活が長期化するにつれて、難民自身がコミュニティにおいて、疾病の予防や健康の保持・増進についての認識を高め、共助を進める仕組みを作るための活動に取り組んでいます。ロヒンギャのボランティアと協働し、彼らが同じロヒンギャの人々を啓発し力づけているのです。
©Kazuo Koishi
ホストコミュニティであるコックスバザールでも
©MdM Japan
すべてはロヒンギャとともにあること
ロヒンギャの人々にとっては先が見えない日々が続きます。バングラデシュ政府、現地NGO、国際社会が協力し支援活動を行っていますが、今なおロヒンギャの人々はミャンマー帰還に向けた国際情勢に翻弄され、基本的人権の保障や国籍さえもないままキャンプ生活を送っています。
ロヒンギャの人々とともにあることを第一に、健康への権利を有するという認識を彼ら自身に深めてもらい、そして心身の健康を維持できるよう今、私たちができることに取り組んでいます。
©Kazuo Koishi
1 -中坪央暁(2019年8月). ロヒンギャ難民100万人の衝撃(めこん)
2 -トム クレーマー(2012年). ミャンマー政治の実像 : 軍政23年の功罪と新政権 のゆくえ 第4章 ミャンマーの少数民族紛争(日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所)
-1200px-Armed_conflict_zones_in_Myanmar.png (1200×2663) (wikimedia.org)
ロヒンギャを巡るキャンプと国際情勢 / 世界の医療団のこれまでの活動
2017 |
8月25日 |
2017年12月~2018年4月: 難民キャンプにて基礎的医療へつなぐ活動 → 80人の子ども、140人の妊婦、50人の高齢者を診療につなげ、健康教育を行った |
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2018 |
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2018年8月~2019年5月: 難民キャンプにて保健や防災に関する啓発活動 ➡ ロヒンギャボランティアを通じ約9,000人に啓発活動を実施 |
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2019 |
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2019年5月~2020年3月: 難民キャンプと周辺コミュニティの若者への保健衛生教育 ➡ 約120人のユースボランティアがユース世代の約3,400人へ啓発活動を実施 ➡ 難民を受け入れているキャンプ周辺のコミュニティ(ホストコミュニティ)で5つの高校約300人に啓発活動を行う |
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8月 |
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9月 |
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2020 |
5月 |
2020年5月~2021年3月: 難民キャンプと周辺コミュニティにて高齢者・障害者を対象とした 新型コロナウィルス啓発活動、コミュニティの共助力を強化する活動 ➡ 難民キャンプとホストコミュニティにて、約30,000人の人々に、予防、検査・診療についての戸別訪問・メガホン・宗教施設(モスク)を通じた啓発活動を実施 ➡ 難民キャンプでは新型コロナウイルスに特に脆弱な高齢者・障害者を見守るコミュニティボランティア90人を育成 ➡ ホストコミュニティでは診療所の対応強化研修を実施 |
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2020年7月~12月: 難民キャンプにてコミュニティ保健ボランティアによる訪問ケア・啓発活動 ➡ 難民キャンプの保健ボランティア38人が妊婦のモニタリングや相談対応、新型コロナウイルスに関する啓発活動と戸別訪問を実施 |
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8月 |
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12月 |
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2021 |
2月 |
2021年3月~: 難民キャンプと周辺コミュニティにて非感染性疾患に関する啓発活動、 コミュニティの共助力・診療所の対応力を強化する活動 ➡ 育成ボランティアを通じた予防や適切な疾病管理についての啓発、家族支援者の相互の情報交換・支援の促進、ホストコミュニティの診療所の対応強化支援を行う |
現在まで約100万人がバングラデシュへと逃れている