©Kazuo Koishi

シンポジウム「日本におけるハームリダクションを考える」レポートVol. 4 -ハームリダクションとハウジングファースト-住まいを得た当事者との対話から

ハームリダクションの考え方は薬物使用だけにとどまらない。不安定な住環境から安定した住まいを得たお二人はそれぞれにアルコールやギャンブルの問題を抱えていました。
当初、お話いただくことに抵抗が全くなかったわけではないお二人。会場で流した動画インタビューの方は『誰かのためではなく、自分自身による人生の振り返り、こうして自分の半生や経験を人に話すことで自分のなかでいろいろ整理になった。何時間も人に自分自身について話す機会なんてなかったから』
会場でお話してくださった鈴木さん『緊張して逃げたくもなったけど、私の話が誰かの何かのためになるのなら』穏やかにそう感想を語ってくれました。
ハウジングファースト(住まいを最優先とする支援アプローチ)になぜハームリダクションが繋がってくるのか、お二人の話から見えてきたもの。

依存や問題の『根っこにあったもの』が全くきれいに解決したわけではないところが、ハームリダクションなのであり、そんな人間らしさが垣間見えるセッションになりました。

森川 すいめい 氏
精神科医、ハウジングファースト東京プロジェクト代表医師

岩本 雄次 氏
精神保健福祉士、ゆうりんクリニック ソーシャルワーカー

岩本:
ゆうりんクリニックで相談員をしている岩本と申します。相談員として、ソーシャルワークの部分を主に担って、ゆうりんクリニックに受診してくださる元路上生活者の方の支援を主にやっています。よろしくお願いいたします。

久保田:
同じくゆうりんクリニックでは心理士をしております久保田です。私、訪問看護ステーションKAZOCでも地域支援に関わっています。今日は家やクリニックでもお会いするイメージで、対話に参加させていただければと思います。

大越:
訪問看護ステーションKAZOCの看護師をしております大越と言います。鈴木さんのお宅に訪問させていただいています。

鈴木:
今、ご紹介いただいた訳ありの者でございます。みなさまには色々とお世話になっている者です。よろしくお願いいたします。

森川:
森川です。私はカフェインのアディクションが強くて、ハームリダクションのために小さな物を買っているのですが、どうも今日は我慢できなくて大きいのをもう一個買ってしまった。そんな苦労を持ちながら。カフェイン摂ると、覚醒して、高揚感が出てくるんですけど、4時間後に落ち込む、という。それを避けるために小さいのにしていても、ついつい。。。どうでもいい話でした。

©Kazuo Koishi

岩本:
大一番ですから気合が入っている、ということで。
先ほど熊倉さんがハウジングファースト東京プロジェクトの説明の中で、オープンダイアローグという言葉を出してくださったと思うのですが、私たちがとても大事にしているもので、その中で「話すことと聞くことを分ける」という大きなテーマがあります。私たちが常々考えているのは、視線が、例えば私が今話している時に、みなさんのほうを見ていると、私の話していることでみなさんがどのようなリアクションをしたのか、私の話す内容が影響を受けたりとか。逆にみなさんも、例えば私の目線が行っていることで、自分の中で聞いていて感じることに集中できなくなるというか。自分の中で考えていることに集中できなくなるのを避けるために、みなさんから視線を外してここで話すことだけに集中する。みなさんは私たちが話している姿を見ることだけに集中し、自分の中で起こっている色々な考えとか内なる対話というものに集中してもらうために、ちょっと非常識かもしれないのですが、このようなセッティングをしたということでご理解いただければと思います。今日の進行ですが、アルコールの苦労を抱えている方として鈴木さんがここに座ってくださっていて、後でお話を少し伺えればと思います。ギャンブルの苦労を抱えている方にインタビューに答えていただきましたので、その映像をみなさんと一緒に見てこの壇上への会話というものに繋げていただければと思っています。


動画再生(肖像権の都合上こちら内容については掲載できない旨、ご了承ください。



岩本:
こちらは私がインタビューを担当して2時間くらいとても長いお話を聞かせていただいて、人生の、結構大きな部分を占めるようなことを話してくださる中で、すごく印象的だったことを思い出しました。その方は「誰かの役に立てば」とかいうような気持ちでインタビューに応じてくださったわけではなく、「自分の事例はすごく個別的なもので、環境もそれぞれ違うから、誰かの役に立つとは思えないけれども『必要だ』と言ってくれた中で話すことが自分にとっての振り返りになるだろう」とお話してくださいました。

森川:
それで今日、鈴木さんに来ていただけたわけなのですが、今日のこれまでのお話と今の映像も観てくださっている中で、何か今「こんなことちょっと話してみたいな」みたいなことがあったとしたら、先にそれを教えていただいていいでしょうか。

鈴木:
そうですね、自分の場合はアルコール依存症なんですよね。普通の生活をしていてはならないものなので、以前のことからお話しないと。かみ砕いて話すと、自分は普通に家庭もあって・・・でも家庭も失い、仕事も失い、ローンで建てた家も失った。何と言うか自分の居場所もなくて「どうしよう」、それで忘れるためにお酒に走ったんですね。平成12年頃、自分は40代だった頃なので、ある程度若ければ立ち直ったんでしょうけれど、40代だとそこそこの一般の人は。。。。自分としてはそういうのが尾を引いていたので、「飲めば忘れる」というのだけれども、飲めば飲むほど忘れられない時もあって。お金なくなってまで飲んだりして。

挙句の果てにはコンビニで万引きまでして、お酒を飲んで。「鈴木」ではなく、番号で呼ばれるような施設にも入って。それからはある施設に最初にお世話になって、自分はやっぱり気持ちが弱くなっちゃったし、精神的にも弱いということで、ゆうりんクリニックさんにも通っているし、一人で寂しいということもあるのでKAZOCの人に訪問していただいています。
色々と励ましの言葉もあって自分一人ではないんだ、と。来てもらえればありがたいと思っているし、睡眠薬と安定薬を飲んでいるので、今は落ち着いています。助かっています。ありがたいです。

岩本:
鈴木さんの人生についてお話いただいて「今ありがたいな」と感じています。普段ゆうりんクリニックに通っていたりKAZOCさんの訪問を受けて生活が支えられている部分があるのかな、とも少し感じています。普段関わっているKAZOCのお二人からも聞いてみたいのですが。

日本におけるハームリダクションを考える
大越:
訪問看護で週2回、訪問させていただいていますが、鈴木さんとお話する時は、雑談中心という感じ。訪問しても「いないよ」とか冗談をすごく言われる感じで。お金のご苦労もあるかと思うのに、おいなりさんやジュースを準備してくださっていたりとか、逆に気を遣っていただいているという感じです。言葉の端々に出てくるのはご家族のことだったり、色々と思いがあるのかな、と感じながらお話を伺わせていただいています。

久保田:
週に1回か2回は鈴木さんと顔を合わせて過ごしているので、あまり支援をしているみたいな実感はなく、大越さんが今おっしゃったように、隙あらばおいなりさんやジュースが出てきたりするのをどう受け取るか、どう受け取らずに「お願いだから食べてください」と伝えて帰るかみたいな、いつも楽しくお会いさせていただいています。もちろん昔のお話を聞くこともありますけれども、ただただこの3~4か月くらい鈴木さんの今の生活に一緒に立ち会わせていただいているというところが大きいかもしれません。

森川:
何か追加で話したくなったようなことはございますか。

鈴木:
これからも自分は一人ではないんだ、という思いが、やはり。心配してくれる人がいるんだ、という思いがあれば、自分は生きていけます。

森川:
ありがとうございます。ゆうりんクリニックは薬物、ギャンブル、アルコール等の問題を抱えた方もいらっしゃるのですが、今日の松本さんのお話から薬物の方がここに来るのはすごく難しいな、と。日々やめ続けている中でいつ自分が使用してしまうか分からないと思うと前に出るのは、と言っていた方の話を思い出したり。松本さんの話の終わりくらいに出たアディクションの反対語がコネクション、というのを、今、鈴木さんのお話をお聞きして話したくなりました。

岩本:
今回、何人か「この場で話をしてくださいませんか」とお声かけをした時に、やはり「出づらい」という声は聞いていて、鈴木さんご自身も今日とても緊張をされていて、普段はさっきお二人から話があったように、とてもおちゃめな部分というか明るくていろいろな冗談をおっしゃったりするような方ですけれども。やっぱり出て話すことは大変なんだな、と感じていました。今日の緊張感とか、ここに上がるときにどういう気持ちだったのか、もしよろしければ少しお話していただけますか?

鈴木:
ここに上がるのに関しては、やはりどこまで喋ったらいいのか悩んだんですが。やはりこういう場を設けていただいた関係者の方たちに少しでも気持ちを伝えられればいいな、と。どこからどこまで喋ったらいいのか悩んで、緊張してここまで来ましたね。過去は変えられないししょうがないな、と思っています。以上です。(笑)

森川:
鈴木さんからは、昔現場で頑張ってらしたとか、、、ビルの話とか。

鈴木:
今、お話があったので。自分曲がりなりにも建築のほうの道を。高校出てから建築の道でずっと進んできて、大体40年くらい勤めてきました。会社はあちこち移りましたが。それで、多少ですけれども2か月に一度の年金で大体半分は生活しています。やはり、建築はずっと品物が残るので。地震が来て倒れるような家ではしょうがない、見るとやはりその時の苦労が思い出されます。以上です。

森川:
以前、お話を伺った時に「すごく気を遣う仕事だった」とおっしゃっていたな、というのを今思い出しました。

岩本:
もし「こんなところで苦労して、それをこんなふうに支えられている」みたいなことが思い浮かんだら、そのことを少しお聞きしてみたいな、と思っています。

鈴木:
自分には一応家庭があったので、独身生活していた時期も長くありましたが、、、さっきも自分が家にいても「いない」と言って居留守を使うような人と言われましたが、やはり何と言うんですかね。楽しくというか、そんなふうに生きていければな、と思いました。何かうまく言えないな、いっぱい人いて(笑)

岩本:
ありがとうございます。そうですね、楽しさというのが一貫して、伝わってくるような気持ちで聞いていました。

久保田:
鈴木さんの訪問をさせていただくと、お宅の近くに公園があって、そこで手入れをされたりしていらっしゃるんですよ。鈴木さんがアパートに住んでから、すごく綺麗な小さな公園ができて、私と大越さんもそこにお伺いしてみるとちょっと優雅な庭園にいるような気持になりました。そういう楽しい訪問をさせていただいているような気が、私はしますね。

鈴木:
年金暮らしでやることがないのでね。そんなことをやっていました。

久保田:
鈴木さん、すごく健康的な生活をしていらっしゃるな、と思って。

大越:
その公園がとても素敵で。でも元々はゴミがたくさん捨てられているような公園だったみたいです。訪問するとテーブルとイスが公園に設置されて、お花もいっぱい咲いている公園になっていて。ご近所の方が本を読みに来たり、雑談をしに来たりする、みんなが集まれる場所ができていて。「以前はゴミが捨てられていたんだよ」という話から「鈴木さんが来てからここが変わってみんなゴミを捨てなくなったし、誰かが何かを言ったわけではないけど自然とみんなそういう感じになった」っていう。集まれる場所ができていてすごいな、と思っています。

鈴木:
そのテーブルとイスも廃棄処分で集めたやつなので、助かっています(笑)

岩本:
本当はこれから!ところではあるんですけれども、時間がもう迫ってきているということでありがとうございました。

森川:
今日は鈴木さんの応援チームも何人か来てくれました。本当にありがとうございました。

©Kazuo Koishi

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