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ニココロ熊本プロジェクト

ー子どもたちの見まもり活動ー

震災、被災、支援の開始から1年、そして支援の終了から6ヶ月、再び西原村を訪れました。
いまだブルーシートに覆われた建物があるものの、その数は減り、解体工事によって更地となった土地が増えていました。廃材やがれきの山を村のあちこちで目にします。
村内の道路は全面復旧には至っておらず、橋が崩壊したと呼ばれる幹線道路の全面開通には数年を要すると見られています。被害の大きかった風当(かざて)地区を抜け、2017年に全館で営業再開した西原村の俵山交流施設「萌の里」を訪れると、迂回しながらも辿り着いた人々で賑わっていました。

子どもとその家族へ向けた支援


熊本県を中心に2016年4月14日より発生した一連の地震:熊本地震を受けて、世界の医療団(Médecins du Monde:MdM)日本は被害が大きいとされた熊本県益城町、南阿蘇村、西原村などで医療支援のニーズ調査を実施しました。行政、地域の医療機関、外部支援組織など各機関との調整とニーズ調査結果を踏まえ、他地域に比べ支援が疎かになっていた西原村にて子どものこころを支える医療支援活動を行いました。

阿蘇山の麓、西原村は熊本市郊外のベッドタウンとして、子育て世代が多く暮らす地域です。地震は人的被害のほか村の半数を超える家屋倒壊をもたらし、インフラや道路も寸断される大災害となりました。住民のほとんどが避難生活を余儀なくされ、おさまることのない余震、長期化する避難生活に被災者の疲労と不安は募る一方でした。
子どもは地震による揺れ、停電による暗闇、繰り返す余震などがもたらすストレスや不安に対処する能力が備わっておらず、こころの問題は見落とすことができません。また、慣れない集団での生活からくる負担は大人と同様に子どもにも重く、普段以上に保護者やコミュニティでのケアを必要としています。しかし、被災にともない大人たちが忙しく立ち働き、大人の側に子どもをケアする十分な心理的かつ時間的な余裕がない中、子どもや子どもを持つ家族に対するケアや見守りが置き去りになってしまうのが実情です。MdM日本は、子どもとその家族のストレスや心理的な影響を最小限に抑えるため、中期的な支援が必要であると判断しました。

断続的に続く大雨、そして余震。二次災害の発生が懸念される中で、子どもたちに安全な居場所を


震度7を記録する大地震の後も断続的に続く余震、そして記録的な大雨が被災地に追い討ちをかけました。地震による影響で子育て関連施設が機能しない中、まず行ったのは子どもたちに代替となる安全安心な遊び場を提供すること、「親子カフェ」の立ち上げです。単に遊び場を提供するだけでなく小児科医、精神科医の監修のもと、臨床心理士など児童精神・心理に精通したスペシャリストを派遣、メンタルケアに配慮したプログラムを実施することで、地震によるストレスやこころへの影響を緩和し、日常生活への回帰を後押ししました。

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子どもたちとその家族が時間を過ごすことができる「親子カフェ」。
遊び場のない避難所や仮設住宅での日々、看護師、保育士をはじめとする専門家ボランティアの見まもりのもと、子どもたちはのびのびと遊ぶことが出来ます。
スペースが確保できる日は、身体を動かす運動プログラムも。
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保護者のみなさんも一緒に時間を過ごすことが可能です。
バルーンアートアーティストの方や多くの企業のご協力もありました。

ご協力企業・団体

特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム
認定NPO法人 国際協力NGOセンター(JANIC)
㈱フェリシモ
バークレイズ証券㈱
Français du Monde – ADFE Tokyo
㈱グローバル
エクスコムグローバル㈱
㈱バンダイ
プジョー・シトロエン・ジャポン㈱



こころのケアを伝える


インフラの復旧、学校の再開、仮設住宅の完成、被災地を取り巻く状況は刻々と変化します。環境や被災の状況が被災者間でも異なることから、地域の連帯が失われがちになります。被災状況や生活再建に差が生まれ、それは被災者に新たなストレスを及ぼすことがあります。子どもたちも同様です。日常が少しずつ戻るなか「こころのケア」の啓発を図る目的で、子どもと接する機会の多い保護者や教員を対象とする講習会を実施しました。子どものこころの変化、子どもとの接し方、自らのストレスへの対処法をテーマに、児童精神科医と臨床心理士が講演しました。

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プロジェクトの終了、そして地震から1年


プロジェクトの実施期間中、親子カフェへの来場者は幼児、児童、保護者あわせて約500名、3回にわたり開催された講習会には約50名が参加しました。
「子育てひろば」(村が運営する子どもと保護者の交流場)や保育所など、村内の子どもを見守る機能の復旧が一定程度確認され、2016年10月にMdMの活動は無事にそのバトンを地域の機関をはじめ、住民の方自身に委ねることになりました。
そして震災から1年後、子育てひろばを訪れると、たくさんの子どもたちと保護者の方で賑わっていました。まだ色濃く残る被災という現実と向き合いながら、完全ではなくとも戻った日常を過ごす姿がありました。
被災地は今、幻滅期、再建期*¹といわれる時期に入り、被災の程度や環境の違いから被災者一人一人が抱く感情も状況も複雑化しています。いまだ避難生活をされている方、自宅の再建を待つ方も大勢います。そのような中でも、周囲を気遣い思いやる住民の皆さんの様子が伺えました。子育てひろば支援員の方からお聞きしたこと、それは「被災し、つらい時期を乗り越えたからこそ新たに見えてきたニーズがあります。住民の皆さんと行政の橋渡しをすることも私たちの役目のひとつ。」という言葉でした。
阿蘇を望む自然豊かな大地で起きた自然災害。それだけに人々のこころに二次災害に関する懸念が残り、それは今なお続いています。大きな被害を出し、いまだ人々が長い復興の路を歩んでいる中、報道の機会も支援団体やボランティアも減り、熊本地震が目に見えて風化していく状況を心配する声も聞かれました。復興は始まったばかりです。被災から半年間の私たちの活動が少しでも西原の人々の支えになることを願い、そして私たちができることで今後も西原村を応援していきます。


*1幻滅期・再建期
被災者と地域の回復過程におけるプロセス
幻滅期:
災害直後の混乱がおさまり始め、復旧に入る時期、被災者の忍耐が限界に近づき、復旧の遅れや行政サービスへの不満が噴出する時期、地域の連帯も失われがち
再建期:
被災地に日常が戻りはじめ、生活の建て直しに目を向ける。復興から取り残される人も出てくることで、「鋏状格差(きょうじょうかくさ)」と呼ばれる鋏を開いたような格差が拡がっていく


活動報告書のダウンロードはこちら

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