東日本大震災:現地医療活動レポート14

岩手県内の避難所は8月末をもってすべて閉鎖された。

東日本大震災:現地医療活動レポート14
ここ大槌町でも、住まいを失った人々の仮設住宅や借り上げ住宅などへの移行が完了し、自衛隊や各自治体からの医療支援チームも撤退し、町は徐々に落ち着きを取り戻したかのように見える。そのように「目に見えて分かりやすい被害」が減ったことと、仮設住宅というプライベートな空間に人々が移ったことで、被災された方々へのアクセスが難しくなったことなどが報道の減少にもつながっているのかもしれない。
世界の医療団の活動においても、こころのケアが必要な人へのアクセスが以前よりも難しくなっているように感じる。以前なら、避難所に行けば多くの人と会う事ができ、「ちょっと心配だな」と思われる人にはこちらから声をかけることができた。しかし今や、仮設住宅を一軒一軒ノックして歩くわけにもいかない。行政などからの情報提供に基づきこちらから積極的に出向いてはいるものの、助けを求める声を上げる力すら失われた人たちのすべてと首尾よくつながる事はなかなか厳しい現実がある。
現在、多くの支援団体が、「仮設住宅での孤独死防止」「社会的弱者支援」などを目的として様々な取り組みを行っている。しかし、こころのケアが必要なのは社会的弱者ばかりではない。社会的には何の問題も抱えておらず、身体的にも健康で、通常なら支援の対象にならないであろう人でも、苦悩を抱え、眠れぬ夜を過ごし、しかし誰にも助けを求められず苦しんでいるケースも存在するのだ。
私たちはそのような人たちの一部と、周囲からの情報提供などのおかげもあり幸運にもつながることができ、何らかの救いの手の一端になることができた。「もらった薬のおかげで良く眠れるようになった」と見違えるように顔色が良くなった人、面談を重ねるうちに気持ちの整理ができ、少しずつ前に進んでいる人…。しかし一方で、SOSを発する事もできないほど疲弊している、「自分より大変な人がたくさんいる」と自分に言い聞かせ必死に耐えしのんでいる、まだ出会う事のできていない人たちもいるに違いない。
ひとりでも多くの人に手を差し伸べたい。ちょっとでも心が疲れたと感じたら気軽に声をかけてほしい。そういった思いを根気強く発信し続け、寄り添い続ける事で、また新たなつながりが生まれると信じている。

波塚奈穂(世界の医療団)

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