©Sébastien Duijndam

セクシュアル・
リプロダクティブ・
ヘルスケア

多くの国で採択された協定によって、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(Sexual and Reproductive Health : SRH)に関するコミットメントが知られることとなり、またSRH実現へ向けた戦略的な枠組み作りが始まりました。世界の医療団(Médecins du Monde: MdM)のSRHプロジェクトにおいても、「性と生殖に関する権利」に関する啓発をベースにした活動に取り組んでいます。

なぜアクションを起こすのか?


30年以上にわたり世界の医療団(Médecins du Monde : MdM)はセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(Sexual and
Reproductive Health : SRH)プロジェクトを実施しています。SRHとは「人間の生殖システムおよびその機能と活動過程のすべての側面において、単に疾病、障害がないというばかりでなく、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態にあること」を指します(1994年、カイロ国際人口開発会議)。この20年でようやく、各国政府と国際機関はSRHを重要な政治的優先課題として掲げるようになりました。多くの国で採択された協定によって、SRHに関するコミットメントが知られることとなり、また
SRH実現へ向けた戦略的な枠組み作りが始まりました。MdMのSRHプロジェクトにおいても、「性と生殖に関する権利」に関する啓発をベースにした活動に取り組んでいます。

妊娠を望まない2億2,500万人の女性が、いまだに安全で効果的な避妊アクセスを持てずにいます。年間2億1,300万人の妊婦のうち3分の1が望まざる妊娠によるものです。そのうち4人に1人が危険な中絶手術を受け、世界の妊産婦死亡率の13%にあたる約5万人の女性が中絶によって命を落としています。特に紛争中もしくは内戦終結直後の国々での妊産婦死亡率は高く、危機的状況下において特に女性が性暴力の危険に晒されるリスクが高いことを示しています。また、毎年27万人以上の女性が子宮頸がんで亡くなっており、その85%以上が検査と治療へのアクセスがままならない低・中所得の国々で暮らす女性たちなのです。


何のために戦うのか?


望まない妊娠の予防とマネージメント


多くの女性、少女、特に開発途上国の女性は、自身のセックスライフをコントロールすることができません。避妊アクセスが制限されるため、望まざる妊娠が起きてしまいます。安全で効果的な方法で避妊できるよう、また必要となれば安全で合法的かつ自由意思に基づく妊娠中絶(Voluntary Termination of Pregnancy : VTOP)を受けることができるよう、MdMはすべての女性の権利を積極的に支援します。避妊については国際社会でも強い反発があるため、現在もその解決にはごくわずかな限られた進展しか見られません。妊産婦死亡率、罹患率が示すとおり、望まない妊娠は公衆衛生上の課題を象徴するものです。最低限の設備もない環境での中絶処置、まだ自身の判断もつかない少女の妊娠。MdMは活動する全ての地域において、医療活動はもちろんのこと、女性、少女が自らの身体をコントロールする権利とその向上についても恒久的に訴えていきます。
「性と生殖に関する権利」が侵害されている地域では、市民団体や医療従事者と連携することで、性教育、安全で効果的な避妊方法、望まない妊娠のケア・マネージメントなどについて知識の普及を図っています。

©Lam Duc Hien


危機的状況下におけるSRHに関わるニーズへの対応


危機的状況は、医療システムをも揺るがします。女性が必要とする治療や医療サービスへのアクセスを阻み、ジェンダー不平等を増大させます。経済成長、社会問題、治安上の理由から、女性や少女たちが自身による意思決定(人生の選択、医療アクセス、権利行使に関わること)が難しい状況にあります。避難民となり孤立することになれば、女性であることの脆弱性を更に強めることになるでしょう。人が密集する環境下での生活、これまでの日常の喪失、避妊アクセスがないことなど全てが、暴力、HIVを含めた性感染症、望まない妊娠を蔓延させる決定的要因となります。またそうした性暴力の加害者が処罰されることなく、暴力がまかり通る環境下は、更なる暴力悪化を引き起こす大きな要因となります。人道医療支援団体として、MdMには
SRHに関わるニーズに応え、危機的状況下で発生する暴力を非難し糾弾する責任があります。他のアクターと協働し、広範囲かつ多分野に渡る対応を行いながら、紛争地域(シリア、中央アフリカ共和国、ウクライナ、コロンビアなど)やネパールなどの被災国で医療介入を行っています。人道支援の初動段階からSRHサービスを導入、徐々に強化し、基本的人権(身体的保護、安全、健康の権利)が侵害されている状況に対し、政策決定者を含め警鐘を鳴らします。


子宮頸がんの予防


毎年27万人の女性が、子宮頸がんで命を落としています。性交渉で感染するヒトパピローマウイルス(HPV:Human
Papillomavirus)が原因とされ、適切な検査がなされることで多くの場合、重症化や死を避けることが可能な疾患です。子宮頸がんによる死亡者の85%は、検査と治療アクセスが十分でないとされる低・中所得国の女性です。毎年、新たに子宮頸がんと診断される53万の症例(診断されなかった症例は含まない)の治療や進行を抑制するには、必要な適切な治療を続けていくこと、そして前癌病変や前癌状態の早期発見が最も重要となります。低価格で最新の検査ツールでなくとも、検査はがん発見に有効とされ、開発途上国の子宮頸がん死亡者減少につながるはずなのですが、あらゆるリソースが不足していることで、女性たちにはそれら予防へアクセスすることができません。
フランスでは、医療やそれら予防治療から阻害された女性を対象に情報提供や自己採取HPVテストを提供する支援活動を行っています。社会経済的状況や脆弱性いかんに関わらず予防と早期発見がスタンダートになるSRHへの取組みが、今後ますます注目されていくことでしょう。

セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスケア



世界の医療団のSRHに関する取組み


コンゴ民主共和国/Democratic Republic of the Congo  キンシャサ/Kinshasa


少女たちが避妊とSRHにアクセスできる環境を創る


コンゴでは、4人に1人の少女が19歳になるまでに妊娠すると言われています。また15歳から19歳の少女31%は、避妊を必要としているにもかかわらず、避妊することができないと推定されています。コンゴでは、未成年の避妊は違法であり、女性の命が危険な場合にのみ中絶が許可されるのです。世界の医療団が2015年に行った調査では、多くの少女が家族や地域から疎外され、教育を中断していることがわかりました。

世界の医療団と協働パートナーは、10歳から24歳の若者のSRHの改善に向けて、キンシャサの地域や当局と連携し、活動を行っています。コンゴのNGO「HPPコンゴ」と協働し、性に関する様々な問題を解決し、知識を高め、HIVなどの性感染症や、性的暴力、避妊の方法について、若者や家族で話し合うことができるよう地域ベースのさまざまなグループを組織し、サポートしています。
形成された若者や家族の活動グループは、「HPPコンゴ」の支援を受けて、地域住民、中でも若い少年少女たちが、安全な場所で話し合いができるような機会をもち、その若者たちによって医療サービスや性感染症に関する予防に関する様々な情報が拡散されていきます。また、若者のSRHサービスへのアクセスを高めるため、居住地近くの医療施設を案内するシステムを提供しています。そういった医療施設内には、若者同士が出会い、医療者との関係や交流を促すための交流スペースを設けています。私たち世界の医療団は、若い世代が必要とするニーズを把握し、若者たちが自身で状況判断することなく医療者に相談することができる仕組みを作り、質の高い医療サービスを提供するため、現地の保健所と協働しています。性と生殖に関する権利を尊重し、若者のケアと治療について専門的知識を持つ医療者を育成し、医療施設には必要な備品や器具を提供しています。

また、すべての女性が自由に避妊を選択できる権利を持ち、望まない妊娠に関わる問題を公の議論にするための取り組みを、私たち世界の医療団は支援しています。

©Lam Duc Hien

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

このプロジェクトに関する最新記事

その他の活動