世界の医療団2021年度活動報告会を開催しました

2月1日(火)、2021年度活動報告会をオンラインで開催しました。寄付者のみなさまをはじめ、学生や、NGO、メディアの方、一般の方など多くの方に参加していただきました。ありがとうございました。

報告会では、事務局長の米良からの挨拶のあと、ハウジングファースト東京プロジェクト(HFTP)について、武石から報告しました。東京・池袋を拠点に、7団体で協働し、ホームレス状態にある人にまず安心安全な住まいを提供し、生活再建へつなげていくもので、世界の医療団は全体のコーディネートを担い、夜回りや医療相談会の実施などを行っています。2021年度に29回実施した炊き出し医療・生活相談会は、平均利用者数が昨年度の1.7倍に。マスクや手指消毒液などが入った感染拡大防止キットを、多くのボランティアとともに1万6062セット配布しました。同時に支援情報も併せて届けました。また、大きな成果として、豊島区との協働により、10月と11月に2回のワクチン接種会開催を実現。事前にアンケートで当事者の不安の声を拾い、豊島区とチラシを作成して丁寧に説明。64名が2回の接種を受けることができました。

次に、東南アジアで妊産婦死亡率、5歳未満児死亡率が最も高いラオスでの地域医療強化プロジェクトについて、小川から報告しました。医療基盤がぜい弱な北部山岳地帯のフアパン県ではコロナ感染者増加により、医療システムの破壊や逆行が懸念されています。世界の医療団では、コロナをまず予防することで持続的な母子保健サービスにつなげようと、感染予防啓発活動の対象者を4つに絞り、それぞれに応じた啓発活動を実施しました。特に、若者には、4本の啓発動画を制作してTikTokで配信。中・高校にもビデオを設置してもらい、12万8000回以上視聴されて、若者の感染防止意識を高めることができました。

3番目にロヒンギャ難民コミュニティ支援プロジェクトについて木田が報告しました。コロナに注目が集まる一方、非感染症疾患で亡くなる人は世界で毎年4100万人。特に、低・中所得国では死亡率が高く、その予防は喫緊の課題です。キャンプ内とホストコミュニティで、40歳以上の対象者とその家族各5000人以上に健康教育を実施しました。さらに、地域のクリニック支援として、医療資材を提供するとともにスタッフの研修を実施。健康な生活習慣への行動変容を定着させるために、家族やコミュニティが一丸となってサポートできる体制づくりを大切にしていると伝えました。

第二部では、スペシャルトークとして、TBSラジオ記者の崎山敏也さんをお迎えし、「メディアから見たコロナ禍の現状や報道のあり方」についてお話しいただきました。崎山記者はメディアとしてだけでなく、ボランティアとしても池袋での活動に参加されています。それらの経験も交えながら、一人の記者として見えたメディアの風景を問題提起という形で語っていただきました。コロナ報道において、虚実入り混じる情報がSNSも含むメディアを通じて大量に流れ、特に嘘の情報のほうが早く伝わりやすい状況が生まれている。SNSでは自分に都合のよい情報ばかりを集める傾向にあり、感情を伝える力も強く、マスメディアと同等の力を持っている。感染者への忌避感から感染者や医療従事者への差別が起きた。「夜の街」や「若者」というあいまいな言い方がなされ、多種多様なものであるにもかかわらず、ひとくくりの言葉によって、差別を引き起こした。また、コロナ禍があぶりだしたホームレス状態にある人びとや少数言語の在日外国人や仮放免の人たちの課題への報道は増えたが、新型コロナの流行が終われば忘れられるのでは、という懸念も生まれている。さらに、日本と他国を比較してワクチン接種やPCR検査が日本は遅い、という声が上がったが、背景にある各国の状況が異なるにもかかわらず、表面に出てきたことだけに注目する状況が生まれた、と問題点を指摘されました。そんななかで崎山記者は、コロナ禍でも働かなければならない人や情報が届いていない人などを、オンラインではなく必ず現場に行って自分の目で見て伝えることを心掛けたと話されました。そして、メディア全般の課題として、確かな情報は届きにくく、出す方法の工夫が必要であり受ける側も立ち止まる必要があること、知らない分野でフェイクを信じたり、不適切な解釈をして広めたり、ということを自戒したい。感情を刺激する言葉ではなく、ゆっくり考えるための言葉やニュースが必要であり、複雑なものを単純化するのではなく、複雑なままに受け止めて話し合っていけるような情報の出し方、受け止め方が必要と話されました。

次にクロスセッションとして、崎山記者と世界の医療団の報告者3名にロヒンギャ支援担当の中嶋を加え、参加者からの質問も交えて活動について話し合いました。
崎山記者より情報の出し方について質問があり、HFPTでは厚労省のサイトや医療班のスタッフのアドバイスをもとにした確かな情報のみを伝えたと話しました。ラオスでは検閲されているテレビ、新聞等の国営メディアよりSNSが信頼されている状況があり、SNSを活用。バングラデシュ、とくにロヒンギャ難民キャンプではイスラム教徒はコロナに感染しない、という情報が出回っていたため、宗教指導者の協力を得て、メッセージをモスクで伝えてもらうなど宗教的背景を考慮して発信したと答えました。崎山記者から伝えるときに大事にしていることは、という質問に、ラオスでは少数民族が多く共産主義社会なので、みんなで一緒に守っていこう、というメッセージの出し方が有効であること、批判や否定をせずに、ポジティブな伝え方をしたと答えました。HFTPでは当事者から機会を見つけてひたすら話を聞くようにしており、そのことは各活動のベースになっていると話しました。また、参加者からの質問で、ネパールで活動を予定しているが気をつけるべきことは?という問いに、武石は、何が困りごとなのか、自分たちが予想するのとは違う角度からも当事者の話を聞くことを大事にしていることや、制度を変えるためにどこに働きかければいいのか、関係者分析を大事にしたことなど、ワクチン接種会の経験をもとに話しました。また、ロヒンギャのコロナ感染状況についての質問には、キャンプには90万人の人口で感染者累計が3365人(1月25日付)で比較的抑えられていると答えました。若者が多いために症状が出ていないのか、理由は不明とのこと。さらに関連質問で、ラオスでは医療資源の不足は起きていないのか、先進国からどんな支援ができるのか、という質問が出ました。他の保健関連分野に充てられている援助の多くが新型コロナ対策に振り分けられ、母子保健など必要な他の予算が減っていると課題を指摘。ロヒンギャ支援でも同様の状況が伝えられました。崎山記者より、情報がコロナ関連に偏り、援助もそこに、ということになってしまう、情報の在り方としての注文は?という問いに、中嶋から、さまざまな問題がコロナ前から存在している、コロナを切り口にもとからある課題を組み合わせて発信し底上げしていくことが理想と答えました。武石も、日本でもコロナによってその前から困っていたものが可視化されていると指摘。それを受け、崎山記者からメディアに携わる人間として自戒も込め、前から課題があったことに対して、コロナ後も忘れないで報道をしていければ、と話されました。
最後に米良から、新型コロナが終わっても、前からの課題に対してちゃんと医療につながるように活動を続けなければならない。軸となる「自分たちが一番何を大切にして活動しているのか」を思い返すひとときになった、今後も応援をお願いしたい、と締めくくり、報告会は終了しました。

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