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05.09 2017

ハウジングファースト東京プロジェクト:野宿を解消せずして、健康にはなれない -西岡誠医師


月2回の医療相談会には、平均40~50人の相談者が訪れます。定期的に来られる方も多く、年間の相談件数は1,000件を超えています。医療相談会を通して見えてきたことについて、ゆうりんクリニック院長で内科医の西岡誠医師にお話を伺いました。

医療相談会ではわからない、治せない病

医療相談会の相談で多いのは、風邪などの感冒症状、胃の不調、打撲や捻挫などの怪我、頭痛、歯痛、腰痛などの疼痛、そして皮膚疾患です。これらはすべていま現在困っていること、どこの医療相談会でも共通して言えることだと思います。相談者の身体を本当に蝕む病は、手当てされぬままです。高血圧、糖尿病、喫煙関連疾患などがその代表です。

利用しにくい福祉・医療制度

これらの疾患は医療相談会での診断が容易ではなく、また診断出来たとしても、ホームレス状態を放置したままでは安定した治療に結びつけることが困難です。生活保護を受給すれば生活費、住居費、医療費が支給され、野宿から脱することが出来ますが、親類縁者に扶養紹介をかけられ、劣悪な中間施設に入居させられることを嫌い、生活保護を拒否する人も大勢います。
生活保護を受けず、保険証やお金がなくても医療を受ける方法はあります。無料低額診療事業を行っている医療機関では、事前あるいは事後的審査はあるものの無料もしくは低額で医療を受けることができます。医療相談会や夜回り等で相談者に治療が必要と判断した場合は、無料低額診療施設に紹介をすることもあります。ところがこの無料低額診療事業についても、多くの問題が見られます。都下でこの事業を行っている医療機関は2016年12月の時点で51か所、我々が主に活動している豊島区には一軒もありません。生活困窮者にとって、区外まで出かける交通費は生活を圧迫します。無料低額診療の情報そのものも、当事者に周知されているとはとても言えない。周知されることもないため、ニーズはあるのに利用者は少なく、かつ医療機関側でも制度に習熟していないという悪循環もあります。また無料低額診療事業は一時的な治療を想定しており、高血圧や糖尿病、喫煙関連疾患、悪性腫瘍のチェックアップには向いていません。これらをうまく乗り越え、無料低額診療を受けることが出来たとしても、それでもまだ治療には繋がりません。病院では、薬を処方(院内処方)されることはありません。 調剤薬局での費用は無料にも低額にもならず、薬を受け取るためには処方箋を調剤薬局に持参し、薬剤費(10割負担)を支払わなければなりません。

野宿経験者には重症者が多い

2016年4月、野宿者を支援する医療者が集り、様々な困難を抱える人を診る「ゆうりんクリニック」を開設しました。開所から1年、驚かされたのは野宿を経験した人は、若くても重症な患者さんが多いことです。高血圧を例にとると、血圧が高いほか心臓や腎臓に障害が出ている人がかなりの割合で見られます。高血圧患者の約半数の人たちが心肥大を起してしまっている。これは一般病院の外来では考えられないことです。 野宿生活では塩分が少なく野菜や魚介類の多い食事を摂るのが難しく、また定期的に運動する機会を持ちにくいものです。健康に関する情報も入手しにくく、酷暑極寒のなか屋外で寝泊まりしないといけない。暴力被害に遭うことも多く、神経の休まる暇はありません。また、大気汚染は呼吸器系疾患のみならず、心血管系のリスクになりうることも判っています。住処を持つ人々ですら健康被害を受けるのですから、一年中外で寝泊りする人々への害はその比ではありません。これら様々な悪条件が重なり、疾患が重症化しているのだと、私は半ば確信しています。つまり、野宿は健康に悪いということです。野宿を解消せずして、健康にはなれないと言ってもいい。

寿命格差、住いは健康によい

野宿者の寿命は、一般人より20年短いとする報告もあります。現代は格差社会と言われますが、寿命格差ほど酷い格差は他にありません。野宿が健康を蝕み、そして自分だけの部屋を持つこと(ハウジング)で健康になれるなら、「住まいは健康によい」はずです。住まいを持つことは従来、尊厳や権利の文脈で語られてきました。一医療者として、そこに「住まいは健康によい」と付け加えたいと今、改めて思っています。
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