© Olivier Papegnies

中東危機

ーシリア、イラク、レバノン、トルコの今ー

中東危機MdMの活動2016年

世界の医療団 in シリア


背景


紛争の規模、期間、そして複雑な状況すべてがシリアの医療事情のすみずみまで、悪影響をもたらしています。国連人道問題調整事務所(OCHA)の報告では、シリア国内1,130万人もの人々が今すぐ医療を必要としています。

紛争の勃発から7年、医療施設、医療従事者、患者は依然、攻撃の標的とされている現状が続いています。紛争初期からシリアの医療システムは混乱をきたしており、2017年現在、機能する医療施設は紛争前の半数以下となっています。その結果として、本来救えた命がけがや病気で失われている現状があります。さらに、国連によって危険と定められた地域、到達困難地域においては、立ち入ることもままならず、こうした地域での医療事情は悪化する一方です。

シリアでは、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスケア(SRH:性と生殖に関する健康)をはじめ、安心できるプライマリヘルスケアを受けることが難しい状況にあります。また、メンタルヘルス分野の大きなニーズに応えるため、さらなる支援が急務となっています。メンタルヘルスおよび心理的ケア専門スタッフが特に不足しています。

2017年、医療従事者にとって世界で最も危険な国と言われたシリア*¹。医療従事者たちは自らの命をも覚悟して医療支援にあたらねばならないほど、きわめて困難な状況で活動しています。

Humanitarian Needs Overview 2018, November 2017.

©AFP=時事


シリアでの活動


MdMは、2008年よりシリアの現地パートナーを通じて医療サービスを提供し、2011年の紛争勃発からはその支援を拡充し活動を行っています。

シリアの医療アクセスと継続的ケアの存続を図るために、MdMは現地パートナーと連携し、財政面をも含めて医療支援に取り組んでいます。必須医薬品や医療機器の提供、医療インフラの再構築、100名を超えるシリア国内の医療者へ研修の機会を提供しています。
今日、MdMは紛争に巻き込まれた50万人を超える人々の緊急の医療ニーズに対応しています。また、現地の医療団体と協働し、医療システムを強化すべく継続的な支援を行っています。2017年、MdMは70万件を超える診察を行いました。

地域の医療施設と現地パートナーを支援する形で、イドリブ、アレッポ、ダマスカス、ハサカの地域にて、包括的なプライマリヘルスケアを提供しています。2018年1月時点、22の医療施設とモバイルクリニックを支援しています。また、長引く紛争で崩壊した医療システムを補うべく、国内避難民や現地住民を対象に様々な医療サービスを提供しています。

シリアでの活動



活動アップデート


MdMフランス・シリアミッションのジェネラルコーディネーターのRodrigo Serqueiraより、MdMの活動報告です。

 


世界の医療団 in イラク



背景

世界の医療団 in イラク 診療件数  2017
国内避難民がイラク全土に拡がり、非常事態が続いています。ISIL(イラクとレバントにおけるイスラム国)に対する掃討作戦は、2017年12月に正式に終了しましたが、イラクの一部の地域では暴徒化した残党がまだ活動しています。クルド人地域(KR-I)とイラク中央政府の間で領土をめぐる覇権に意見の折り合いがつかず、係争地域から新たな避難民が続出する状況が続いています。

公共サービスは麻痺状態が続き、機能していません。治安不安定な地域では、医療システムや医療施設へのアクセス確保が十分ではなく、現地住民と避難民が危険に晒されています。地元民だけでなく、IDPs(国内避難民)、ISILを脱退し故郷に帰って来ようとしている者も多くいることから、まずプライマリケアの提供を整備することが、喫緊の課題となっています。現在、プライマリケアを提供する医療施設はその需要が間に合わず、また医療資源(医療スタッフや医療材料・薬品など)の不足によりその役割を果たしていません。


イラクでの活動


社会的に弱い立場とされる人々を中心に、国内避難民が滞在するキャンプやその地域にてプライマリヘルスケアとメンタルヘルスケアを提供しています。
移動診療(モバイルクリニック)を軸とした介入にとどまらず、イラクの保健機関と協働し、現地の医療施設を直接支援できるよう地区や行政区レベルの地域の健康管理責任者との協力体制を築くなど、地域と連携した活動を行っています。
ドホーク行政区では、区域内の最も人口の多い国内避難民キャンプ(Chameshkuキャンプ、人口27,000人)のPHCC(プライマリヘルスケアセンター)を支援しています。ニナワ行政区では、2つの移動診療所運営から4つのPHCC支援の移行へと取り組んでいます。キルクーク行政区ではキャンプにてPHCCで移動診療所を運営しているほか、ハウィジャ地区のPHCCをリハビリテーション、設備、医薬品や医療者の教育の面で強化していきます。
大人・小児のどちらをも対象とした診察、必須医薬品を処方するだけでなく、産前産後の成人女性と思春期の少女たちを中心とした総合的なSRH(性と生殖に関する医療)サービスや家族計画支援サービスを含んだ包括的なプライマリヘルスケアを提供しています。また、モバイルクリニックではMHPSS(メンタルヘルスと心理社会的ケア)のグループセッションやカウンセリングも行っています。

©Olivier Papegnies


世界の医療団 in レバノン


背景


増え続ける難民が、レバノンの医療システムに大きな影響を与えています。もともと公的医療サービスでは十分なプライマリヘルスケアを受けることができず、高額な民間の医療機関に頼らざるをえない制度でしたが、一部補助による低額診療が可能となっても、医療へのアクセスは程遠いものとなっています。2016年の統計では、難民の16%が経済的理由により必要とする医療を受けることができなかったと報告されています(『レバノンにおけるシリア難民の脆弱性評価』より)。また、レバノンに滞留するシリア難民の70%が、生活に適した固定住居を持たないまま避難生活を送っています。固定住居を持たない難民は、検問で捕まるリスクが高く、それは移動の自由が制限されること、しいては医療へのアクセスが奪われることになります。

©Olivier Papegnies


レバノンでの活動


レバノン国内の医療制度の体制強化を目指すほか、シリア難民や国内の社会的弱者が医療によりアクセスできるよう支援活動を行っています。MdMは現地の支援団体や組織と協働、現地の大学と共同研究にも取り組んでいます。ベッカー高原地域では、現地の医療施設がレバノン保健省の医療ネットワークに加入、医療機関の認定が得られるよう、現在4カ所のプライマリヘルスケア・センターを支援しています。また、医療技術力向上を図るための医療者向けトレーニングも行っています。医療施設では一般診療、セクシュアル・リプロダクティブヘルスサービス(産前・産後ケア、家族計画)、非感染性疾病の治療、性暴力や性差別を防止する取組みを行うほかその被害者へのケアを提供しています。メンタルヘルスケアと心理社会的ケアでは、アウトリーチ活動をはじめソーシャルワーカーによるケアマネジメント、セッションや教育トレーニングの提供、必要とされる場合には精神医療専門家への仲介、また食糧配給券の支給、シェルター、法的扶助サービス、教育、再定住など生活全般にかかる支援サービスも行っています。もちろん精神面での診療が必要とされるケースには、精神科医療専門家による個別カウンセリングやグループ療法なども提供しています。





世界の医療団 in トルコ


世界の医療団 in トルコ 診療件数

背景


シリア危機が勃発してから大量の難民がトルコ国内外に押し寄せ、トルコの公的医療制度は逼迫しています。シリア難民としてID登録ができれば、無料で公的および民間の医療を受診することができますが、診療に係る費用(薬代や交通費など)はその保障に含まれず、難民の財政状況を圧迫しています。ID登録がない難民は、救急のみ無料で診療を受けることができ、その他のプライマリヘルスケアに係る診療費用は自己負担しなければなりません。MdMが医療支援を行う施設で受診したうちシリア難民の10~20%は、登録がありませんでした。


トルコでの活動


トルコでは2016年7月1日から活動を開始、難民・移民が必要な医療を受けることができるように、トルコやシリアの医療団体と協働し医療支援活動を提供しています。イスタンブール、レイハンル(ハタイ県)、ディヤルバクル、バトマン、イズミルにある11の医療施設で医療支援を行っています。プライマリヘルスケア(一般診療、非感染性疾病の治療)、セクシュアル・リプロダクティブヘルスケア、メンタルヘルスケア、心理社会的支援(個別相談、グループセッション、行政相談)を提供しています。

また必要に応じて、セカンダリケアへのアクセスを確保するとともに、財政支援、医療機器・医薬品の提供、医療者への技術指導なども行います。シリアとトルコの国境沿いにある医療センターにおいては、トラウマを抱える患者に対して術後診療とリハビリテーションを実施、レイハンルの病院では手術などの支援も実施されています。


©Olivier Papegnies

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