オンラインイベント「多発する人道危機と世界の医療団の活動」を開催しました

11月8日の夜、オンラインイベント「多発する人道危機と世界の医療団の活動」を開催しました。学生や社会人など約30名の方が参加してくださいました。

最初に事務局長米良が、「ガザという言葉が毎日のように二ユースに出てくるなか、日本の私たちの耳に届かないものもたくさんある。多発する人道危機の原因は何なのか、日本にいるわれわれができることは何なのか、考えるきっかけになれば」とあいさつ。
そのあと、海外事業プロジェクト・コーディネーターの中嶋が、世界の人道危機と世界の医療団の活動について発表しました。

中嶋は地図を示しながら、世界各地で発生している人道危機について、その規模や背景、原因、現在の状況について説明。ミャンマーから逃れたロヒンギャ難民、ウクライナ紛争、トルコ・シリア地震、シリアの内戦、モロッコ地震、リビアでの洪水、アフガニスタン地震、スーダン内戦、そしてガザ。さらに、イエメンやエチオピアのティグレ紛争、ナゴルノ・カラバフでの紛争。ネパール地震にも言及しました。これらの地域では紛争や自然災害が発生する前から人道危機に直面しており、現在23人に1人、世界の人口の約5%が人道支援を必要としていること、2023年6月時点で1億1000万人が難民・避難民・庇護希望者になり、その多くが中・低所得国に逃れていると伝えました。そして、これらの国々ではもともと保健医療システムが脆弱で、人材や資機材、資金が不足している状況であると説明しました。


世界の医療団が活動するガザでは、1ヶ月で死者が1万人を超え、毎日死者数を更新していること、特に病院が攻撃されたことは国際人道法違反であり医療が機能不全に陥っています。世界の医療団は国連機関と連携し、衛生キット400セットを配布しました(詳細:https://www.mdm.or.jp/news/26785/)。また、バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプウクライナトルコ・シリアで世界の医療団が行っている活動の最新の状況についても説明。具体的事例として、シリアで紛争から逃れてきた先で地震にあい、親族が死亡し、うつ状態であったが、精神的支援によって回復した例や、震災のショックで吃音が出てきて引きこもっていた10歳の男の子が、治療で吃音が軽減し友達とも遊べるようになった例を紹介しました。

ガザでの支援
さらに、先進国も含めたグローバルな危機として気候変動について言及。温暖化によりウイルス宿主との接触の機会の増加やマラリアなどを媒介する蚊の生育地の拡大、台風などの災害規模の増大や頻度の増加、海面上昇リスク、水不足による農業生産低下とそれによって引き起こされる栄養不足、非感染性疾患の増加など、数々のリスクを指摘しました。
なかでも保健システムが脆弱な国はこれらのリスクに対応しにくく、紛争が生じて人道危機が生じ、さらに気候変動と負の循環に陥ることも考慮しなければならず、保健の技術的金銭的支援が必要であると伝えました。また、人間の健康だけでなく動物や環境との連関を視野に入れたプラネタリーヘルスへの対応についての研究も進んでいると話しました。


グローバルな危機
これらの課題に対して、「答えは一つでもない。危機は政治・経済要因によって引き起こされており、私たちの活動は火事にハチドリが水滴を落としていくようなもの。でもハチドリが大群になれば結果は変わり、苦しむ人に寄り添い、苦しみを軽減するためにさまざまなステークホルダーと協働する支援は不可欠だと考える。私たちを支援の「道具・媒介」として使ってもらえれば」と締めくくりました。

その後の質疑応答では、下記のような質問がなされました。


現場での医療支援活動の重要性と同時に、社会の仕組みを変えていくアドボカシーが大事ではないでしょうか
中嶋 ご指摘の通りで、世界の医療団はアドボカシー・証言活動もしている。ガザに対して停戦すべきという声明を出している。危機に対して支援が必要だが、黙々と支援しているだけでは状況が変わらないので、声を上げていかなくてはならない。すぐに状況が変わらないのはもどかしいが、無視をする、あきらめる、黙っているというのでは何も変わらない。
世界の医療団も声明を出したり、署名に賛同して呼び掛けている。

 世界の医療団の声明https://www.mdm.or.jp/news/26755/
 署名サイトchange.org

ガザやウクライナでも物資の供給がなされているが、調達はどのようにしていますか?
中嶋 ウクライナの場合は西部のほうが安全で、安定しているので、そこから調達したり、周辺国から運び込んでいる。日本から送ると郵送費のコストや関税の手続きが大変。地域の近くで調達できれば輸送の面で早い。また、近隣国であれば日頃使っているものをそのまま使える。世界の医療団は世界各地にネットワークがあることを生かし、国内の調達をめざしていて、それが難しければ周辺国で調達している。日本から送っていただくのはありがたいが、日本語で薬の説明が書いてあると現地では読めないので使えない。なるべく近いところで調達し、プロが届けるのが望ましい。

紛争地が増えるばかりで暗い気持ちになりますが、紛争終結などによって支援が縮小できるようなところはあるのでしょうか?
中嶋 紛争終結はある。たとえばエチオピアのティグレやネパール、南スーダンの紛争も落ち着いている。支援が縮小できればいいが、支援の内容が変わることが多い。緊急の場合、まずは人の命を救いケガを治し、衛生を保てることが必要で、紛争終結後は、荒廃した場所での診療所の立て直しなど物理的なものから、人材育成など保健医療システムの回復と強化といった復興・開発支援が必要。紛争終わってめでたしめでたしにならず、息の長い支援が必要。

支援する危機としない危機の違いは?
NGOごとに異なるかもしれないが基準はある。その国で対応できるのであれば外部の支援は不要だし、政府が政治的に海外の支援を要請しない場合は勝手に入れない。モロッコ地震においてはモロッコ政府は4ヶ国(スペイン、イギリス、カタール、アラブ首長国連邦)に限って支援の提供を認めた。また、残念ながらどの団体もすべての危機に対応できないという団体側の事情もある。紛争や災害の規模、緊急性、入りやすさなど総合的に判断して順番をつけざるをえない。人の命は同じなので、非常に悩ましい。

自分の仕事に対する夢や目標は? 
今の仕事に就く前から海外の仕事、世界の不均衡を埋めるお手伝いをしたいと思っていた。理不尽がまかり通っていることに対する怒りがモチベーションになっている。一人が怒って一NGOができることは限られている。何ができるのかという答えがなかなかないが、あえて身を置いてみて、危機の種類や国に応じて活動するという流動的な面が語弊を恐れずに言うとおもしろい。価値観や文化の違いを知る楽しさもある。

現在どの地方が、医療において未熟だったり困っていたりしますか?
特にアフリカは脆弱なところが多い。政治的不作為・優先順位付けにより保健にお金が回っていない面もある。バングラデシュの最低レベルの診療所も大変。制度的に整っていなかったり、物資が届いていなかったり、盗難にあったりしている。根本的に底上げできるお手伝いができるのか、考えないといけない。他の団体とも協力してやっていきたい。

最後に司会の阿部から、参加者のみなさまにできるさまざまな支援について紹介しました。

あなたにできる支援
ご寄付や募金箱の設置、学校やグループでの講演会など、様々な方法があります。
ぜひ、ご検討ください。https://www.mdm.or.jp/support/


チャリティ―コンサート
12月4日(月)19時より、都内にてピアニスト・戸室 玄さんのご協力によるチャリティーコンサートを開催します。
チケット申込受付中です、ぜひコンサートへの参加を通じて医療支援活動へのご協力をお願いいたします。https://www.mdm.or.jp/news/26553/

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