小児科医 早川依里子インタビュー 長い目で見てラオスのために。 ラオスの子どもの医療向上のために。

小児科医の早川依里子先生がインタビューに応えてくださいました。早川先生は駐在看護師を日本からサポートしていただいています。
2013年3月11日~22日にかけて行われたラオス小児医療プロジェクトの派遣メンバーでもあります。

小児科医 早川依里子インタビュー 長い目で見てラオスのために。 ラオスの子どもの医療向上のために。◆ラオス小児科医療プロジェクトについて教えて下さい。

ラオスは他の周辺国と比べて小児医療の全国的な普及がまだ遅れています。また医療スタッフの育成も遅れているという事情もあり、世界の医療団では、フランスが妊産婦、新生児までの周産期のプロジェクトを2011年から既に行ってきました。日本はフランスからの要請を受け、新たに周産期以降、5歳未満の小児医療のプロジェクトを開始しました。フランス人、日本人、ラオス人、オーストラリア人という多国籍プロジェクトであるため、言語の問題やそれぞれの国、文化の違いなど、支援に関する多種多様なアプローチ方法がありますが、「ラオスの小児のため」という共通の目的¥に向かって、フランスは周産期、日本は小児医療と、異なる専門分野から多角的な視点で互いに助け合いながらプロジェクトを進めています。


◆先生ご自身がプロジェクトに参加することになった経緯を教えてください。

私は元々文系で外国語学部に通っていましたが、医学部を受け直し医師になりました。以前勤務していた小児科でも海外からの研修生の受け入れを行っていて、国際協力を専門に担う部署があったこともあり、海外のドクターとの交流の機会も頻繁にありました。病院のスタッフ・医師・ナースも国際医療協力の専門家養成コースを受講する機会があるなど、自然と日本国内ばかりではなく。海外に目が向きました。こうした環境の中で、短期ではありますが研究調査目的で海外視察を経験したりしました。こうしたこともあって、ラオス小児医療プロジェクトのお話があった時、自分が元々関心のあった分野で活動出来るならばと思い、参加できることを大変光栄に思いました。

小児科医 早川依里子インタビュー 長い目で見てラオスのために。 ラオスの子どもの医療向上のために。

◆ラオスに行って思ったこと、感じたことを教えて下さい。

ラオスは、旅行者にとても人気がある国です。アジアの中でも特に素朴で、全体が田舎の人のよさ、のんびりした雰囲気を持っています。私達が拠点としているのはパクセというラオス第二の都市ですが、そのような都市でも路上を平気で牛が歩いています。プロジェクトの合間に食事に行くと、ラオス人のスタッフがお店の人と一緒に料理を作り始めるといったこともありました。ラオスの人は男性も女性もあけっぴろげで冗談を互いに言い合うことが大好きです。そして、日本人に対しては同じアジア人ということもあって、とても親近感を持ってくれています。


小児科医 早川依里子インタビュー 長い目で見てラオスのために。 ラオスの子どもの医療向上のために。◆プロジェクトを遂行する上で大切なことはなんですか。

「母子保健プロジェクト」や「ワクチンプロジェクト」というのは、すでによく行われていますが、「5歳未満の小児医療」という分野は扱う範囲が幅広く、すぐに数字として成果が期待できないという側面があります。具体的な活動も、医療施設のスタッフ育成による小児医療基盤の構築、村落での健康普及啓発、住民による医療サービス利用促進、診療・治療の無償化政策導入支援など、多岐に渡ります。私の亡き恩師の教えで「小児は点と点ではなく線で診なければならない」という言葉があります。近代の日本でも5歳までの乳幼児、妊産婦の死亡率が高かったという状況が過去にはありましたが、ラオスの現状はその当時の日本と同じです。そして5歳未満という5年間を無事に乗り越えて「クリア」するためには、次々とハードルがあります。それをクリアしていかないと5歳未満の個々の疾病罹患率・生存率が本当に改善したとは言えません。その為には「小児の包括的プログラム」がとても大切です。

そして、子どもの診察や治療にあたっては、基本は子どもの目線で話しかける事。母親だけでなく父親、祖父母、お兄ちゃん、お姉ちゃんといった子どもを取り巻く周囲の大人たちの目線も意識しながら、子どもの代弁者となるように心がけています。

小児科医 早川依里子インタビュー 長い目で見てラオスのために。 ラオスの子どもの医療向上のために。
◆ラオス小児科医療プロジェクトの今後の課題を教えて下さい。

ラオスは、元々口承文化で、文字文化の発達が遅れてきた国です。本などの印刷物が圧倒的に少なく、看護学校でさえ教科書がひとり一冊ないというのが実情です。このため、文章表現力の養成が不足しているようにも感じます。例えば医療スタッフにアンケートを行っても質問の意味自体をなかなか理解してもらえなかったことがあります。また、子どもの診療に来たお母さん達に質問しても、上手に症状を説明できないことも考えられます。

今後、さらに重要になっていくのは現地での医療スタッフの教育です。ラオスの場合は農村のヘルスセンターの看護師が簡単な診察・診断・治療なども行い現地スタッフを育成していくことで、5歳未満の医療費を無料化しても適切な医療を供給していけるものと思っています。私たちは「裏方」に徹して、スタッフ自身の教育レベルを少しずつ向上させながら、医療水準をあげていくことが、長期的視点でラオスの小児科医療の向上につながると思います。



ラオス小児科医療プロジェクトとは?


2011年より世界の医療団フランスは産前健診・出産を中心に、妊産婦ケアおよび助産師育成に取り組んできました。村落での妊産婦に対する健康教育を進めると同時に、ラオス政府が発行した母子医療サービス無償化政策を運用するため、無料バウチャーも導入し、妊産婦の医療施設利用が徐々に増え、技術と知識をアップしつつあります。 この実績が認められ、小児科部門についても具体的介入要請があがり、2012年4月には日本から担当小児科医師とプロジェクト実施予定地を訪問、世界の医療団日本は保健省スタッフや世界の医療団フランスと協議を重ねた結果、「母子保健」における2015年MDG(ミレニアム開発目標) 達成に貢献すべく、日本は5歳未満の小児医療プロジェぅとに参加。ラオス小児医療プロジェクトがスタートしました。

ラオス小児医療プロジェクト

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