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第3回 ハウジングファースト国際シンポジウム 総括レポート

住まいは人権、住居の質も重視されなければならない、そして、支援にあたる自らもチームも健全でなくてはならない、そのためにチームで共有することが大切。すべての講演で共通していたこと、それは一貫して、話すこと、対話すること、一人の人間として互いを尊重することでした。支援が継続することで、小さな変化に気付くことがある。そのチャンスを捉える関係性の構築。そして、副題のとおり、まさに「失敗するチャンスはある」。ハウジングファーストを実践する側にとって、相手が当事者であっても、ケースワーカーであっても、大家さんであっても、ご近所さんであっても、同じ支援者であっても、トライ&エラーの繰り返し、その積み重ねだということ。
そこからソーシャルインクルージョンが始まるのではないでしょうか。

ハウジングファースト東京プロジェクトが「ハウジングファースト」に出会ったのは、2012年。住まいは人権という理念のもと、住まいを失った人々の支援において、安心して暮らせる住まいを確保することを最優先とする考え方「ハウジングファースト」について、学ぶことからはじまりました。やがてそれは少しずつ現場に取り入れられ、日本で実践したい!という思いに。欧米のホームレス支援においてはその有効性が既に実証されていることから、海外の実践家たちを招聘し日本でももっともっとハウジングファーストを知ってもらいたい、それが日本で最初となるハウジングファーストをテーマとしたシンポジウム開催のきっかけでした。

3回目となる今年のシンポジウム、テーマを決めるにもちょっとした紆余曲折がありました。ハウジングファースト東京プロジェクトのメンバー団体、かかわる1人1人のそれぞれの思い、聞きたいこと、共有したいことが交錯した結果、苦労やそんな紆余曲折も共有しあえる考える場であってもいいのではないか?その結果、「住まいを失った人(貧困、暴力、虐待、依存症、精神疾患、障がい、認知症…)のソーシャルインクルージョンを実現する方法」に決定、今回のシンポジウムの準備が走り出しました。

住まいをスタートとし、当事者だけではない、官民が、地域社会がともにかかわる、そんな支援のあり方を考える場、それが3回目のハウジングファースト国際シンポジウムの開催目的となりました。

今年は連休のさなか、大阪2017年10月8日(日)、東京2017年10月9日(月)の日程で開催、大阪は約50名、東京では100名以上の方にご参加いただきました。

ポリーヌ・ロンテ氏 フランスの公的ハウジングファースト・プログラム(アン・シェ・ソワ・ダボー)の公衆衛生研究チームにて活動、その質的評価をまとめたポリーヌ・ロンテ氏からは、フランスでのハウジングファーストの評価法とその指標、また実践における課題についてお話いただきました。フランスでは4つの都市から始まった公的ハウジングファースト・プログラムは現在20都市に拡大、持続させていくためには評価制度と基準を確立し、新しい地域、人、社会へそれらを活かす必要があるとのことでした。

サンドリン・ビュタイェ氏 ベルギー・ブリュッセルの支援団体 Infirmiers de
rue(路上の看護師たち)のハウジングファースト・プログラム責任者を務めるサンドリン・ビュタイェ氏からは、4年にわたるブリュッセルでの実践について、そこから得た様々な視点からの考察を共有いただきました。
人を中心としてコミットすることが重要、1人の人として接すること、創意工夫や柔軟性が必要、支援ニーズのタイミングを逃さない、チームの問題を共有する、互いにサポートする、トライ&エラーの繰り返し、そして「家を持つこと=途方もないと思われるような夢を実現すること」を活動の哲学としている、そのようなお話がありました。

>>大阪はこちらから  >>東京はこちらから





大阪


プログラム

司会 : 槙野 友晴 氏 ー NPO法人堺市相談支援ネット相談員
講演1:「質的研究アン・シェ・ソワ・ダボー(フランス版ハウジングファースト)2011-2016」
Pauline Rhenter氏 ー保健社会学研究者
講演2:「ブリュッセルにおけるハウジングファースト」
Sandrine Butaye氏 ー公衆衛生/熱帯医学専門看護師
ブリュッセル Infirmiers de rue(路上の看護師たち)ハウジングファースト・プログラム責任者
講演3:貧困報道記者からの公開質問「日本のホームレス問題の状況と課題」
原 昌平 氏 ー読売新聞大阪本社編集委員・精神保健福祉士
講演4:「NPO法人みやぎ『こうでねいと』の活動紹介」
齋藤 宏直 氏 ーNPO法人みやぎ「こうでねいと」理事長
講演5:「『住まいを失った人(貧困、暴力、虐待、依存症、精神疾患、障がい、認知症…)のソーシャルインクルージョンを実現する方法~フランス、ベルギー、日本の実践から~』-医療・看護の視点から-」
高桑 郁子 氏 ー世界の医療団ボランティア看護師、首都医校看護学科教員
講演6:「ハウジングファーストはどこが違うの?-HFTPが大切にすること-」
小川 芳範 氏 ーNPO法人TENOHASI生活応援班ソーシャルワーカー
質疑応答



原昌平氏 大阪では、読売新聞大坂本社編集委員の原昌平氏より、長年にわたる貧困、医療、福祉分野の豊富な報道経験をもとに、日本のホームレス問題の全体像について歴史から課題や偏見までお話いただきました。住まいは安心、自信、自由が確保されなくてはならない、その住まいをベースにホームレスとなった人のソーシャルインクルージョンを実現するために、自己肯定感をはじめとしたエンパワメント、リカバリー、支援のポイントなどについて、語られました。特にエンパワメントの重要性について、自己肯定感、自己効力感、可能性、人とのつながり、居場所、役割が大切になると述べられました。

また、公開質問のパートでは精神科の病床数や措置的入院における日本とフランス、ベルギーの比較について、海外スピーカーの2人とともにお話いただきました。精神科病院の措置的入院については、フランス、ベルギーともに行政や裁判所がその判断にかかわってきますが、日本では医師、病院、家族の同意で強制入院が可能であり、そして入院期間が長いという現状について、問いかけがありました。


続いて、NPO法人みやぎ「こうでねいと」理事長の齋藤宏直氏より、仙台市で展開する障がい者をはじめとした居宅取得困難者への福祉居宅事業についてお話いただきました。空家を有効活用しながらも、行政に頼らない民間事業をモデルとするその活動は東京、京都に拡がり、会場でも参加者皆さんの関心の高さが伺えました。
「福祉というのは継続しなければ意味がない、そのために利益を上げる事業にし、継続させる、をベースに、行政を含めた様々な機関と連携、居宅探しと生活にかかる支援の受け皿になって、これまで活動してきました。
震災以後、家賃の高止まりや保証人の問題など課題はいくつかあるが、ひとつのモデル事業として確立できたように思う。住まいがあるということは、生きること、基盤があること、それがあって本人の夢が実現する。」

高桑郁子氏 世界の医療団ボランティア看護師の高桑郁子氏からは、医療・看護の視点から考えたハウジングファースト東京プロジェクトの「これまで」と「今」についてお話いいただきました。過去数年にわたり当事者と支援者双方に聞き取りを実施、そのまとめについても報告いただきました。「そもそも私たちは彼らの声を聞いているのか?」「本人が決定する」その言葉が印象的でした。


小川芳範氏 NPO法人TENOHASI生活応援班ソーシャルワーカーの小川芳範氏は、自身がハウジングファーストを取り組むにあたって大事にしていることをお話いただきました。「敬意、尊敬がすべて、生まれつき、環境、歴史をも考慮に入れることを忘れずに、この方の迷い、願いを理解して向き合う。目の前にいる方の選択を尊重する。内的な変化の兆しを読み取り、その時によいと思える方向に持っていくお手伝いをする。」


質疑応答では、会場からは多くの質問をいただきました。住居の課題について、またボランティアの役割などについてお答えさせていただきました。最後に、それぞれのソーシャルインクルージョンについて考えをお話いただきました。(後述)

©MdM Japan




東京


プログラム

司会 : 清野 賢司 氏 ー NPO法人TENOHASI事務局長
講演1:「質的研究アン・シェ・ソワ・ダボー(フランス版ハウジングファースト)2011-2016」
Pauline Rhenter氏 ー保健社会学研究者
講演2:「ブリュッセルにおけるハウジングファースト」
Sandrine Butaye氏 ー公衆衛生/熱帯医学専門看護師
ブリュッセル Infirmiers de rue(路上の看護師たち)ハウジングファースト・プログラム責任者
講演3:日本のハウジングファースト実践者からの公開質問
稲葉 剛 氏 ー 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授
       一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事
高桑 郁子 氏 ー 認定NPO法人世界の医療団ボランティア看護師、首都医校看護学科教員
小川 芳範 氏 ー NPO法人TENOHASI生活応援班ソーシャルワーカー
講演4:ハウジングファースト東京プロジェクト代表医師 × アパート入居者 対談
森川 すいめい 氏 ー 精神科医、鍼灸師、みどりの杜クリニック院長
岩本 雄次 氏 ー ゆうりんクリニック ソーシャルワーカー
パネルディスカッション「失敗するチャンスがある」
ファシリテーター:渡邊 乾 氏 - 訪問看護ステーションKAZOC代表・作業療法士
Pauline Rhenter氏、Sandrine Butaye氏、稲葉 剛氏、高桑 郁子氏、小川 芳範氏、岩本 雄次氏
向谷地 宣明 氏 - コミュニティーホームべてぶくろ・ひだクリニック
栗田 陽子 氏 - NPO法人ハビタット・フォー・ヒューマニティ・ジャパンPHW支援コーディネーター



ポリーヌ・ロンテ氏、サンドリン・ビュタイェ氏の講演に続いて、ハウジングファースト東京プロジェクトから稲葉剛氏(住まい)、高桑郁子氏(医療)、小川芳範氏(福祉)がそれぞれの分野における現状とプロジェクト内での役割について述べた後、海外スピーカーの2人へ、ハウジングファーストを実践する上での具体的な質問を投げさせていただきました。稲葉氏からはアパート確保の工夫について、フランス、ベルギー(ブリュッセル)ともに、家を探す専任者がいること、不動産はもちろんのこと、医療、福祉、地域コミュニティアなど様々なセクター、人々への説明を行い、理解→協力→拡がる の構図。

高桑氏からは、質的研究についてインタビューで見えてきたリカバリーの特徴をロンテ氏に質問されました。ある人の事例では、プラスだったのが自分を取り戻すことができたこと、支援チームとの関係性が良くなったこと、マイナスは一人ぼっちになってしまったことが、足かせになっている、との回答でした。ビュタイェ氏には「支援活動のモチベーションをどうやって保つのか?」、「自分のウェルネスと共有しあえるチームワークと関係性がより重要、利用者のいい変化を感じることがモチベーションになる。」と伺いました。小川氏からは病識がない人への対処法について、リスク低減から、定期的に対話することでなぜ拒否するのか、自覚できないのかを突き止める、というお話が2人からありました。


よしきさん 次に、ハウジングファースト東京プロジェクトの代表医師の森川すいめい氏、ゆうりんクリニックソーシャルワーカーの岩本雄次氏、ハウジングファースト東京プロジェクトを通じてアパートに入居されたお二人の渡辺氏による対談が行われました。森川氏の「本人たち(当事者、アパート入居した方)の声がないプロジェクトは意味がない、私たちはついで。」の一言から始まったコーナー、対談ではなかったかもしれませんが、なべさんとよしきさんに自己紹介から支援につながった経緯、
それぞれのこれまで、困難、いろんな思い、そして夢について、話していただきました。


なべさん 2人がこの場で伝えたかったこと:
なべさん:
「アパートに入るのが最初怖かった、1人で暮らすことも、家賃の振込みさえも不安でしょうがなかった。周りのみんながいたからこそ、ここまでやってこられた。これからもハウジングファースト東京プロジェクトの一員として、いろんな活動に携わっていきたい。」


よしきさん:
「支援を受けて自分の生活がすこしずつ安定していくなかで、自分も支援現場に参加する機会が増えた。その場所で思うのが、なぜこの人が路上生活をしているのか想像もつかない、人生どこでどうなるかわからない、紙一重だと思うようになった。自己責任論が強い日本だけれども、どっかでひとつ間違えるだけで人生が変わる、それはどちらかというと当人ではなくて、社会の構造に問題があるのではないか?そう思うようになった。もしもこの中に仕事でも人間関係でも苦しんでいる方がいたら、絶対無理しないでほしいです。壊れる前に逃げて下さい。」


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最後に訪問看護ステーションKAZOC代表の渡邊乾氏がファシリテーターを務め、コミュニティホームべてぶくろの向谷地宣明氏、ハビタット・フォー・ヒューマニティの栗田陽子氏が加わり、「失敗するチャンスがある」をテーマに、パネルディスカッションが行われました。

どういう人を対象にしていますか?
小川氏:
「炊き出し・生活相談、医療相談に来られる方、夜回り(アウトリーチ)で出会った方、不安定な雇用のもと身体を壊したり、高齢などの理由で仕事を失った方、住まいと仕事を同時に失った方、若い方でも派遣労働の方、コミュニケーションを苦手とする方、また、最近は高齢で軽度の認知症の症状がみられ、孤立してしまった方などが多いかと思います。」

渡邊氏 渡邊氏:「精神疾患を持っていない方も対象にしており、年齢層は20-70代、路上生活歴がない人もいる。つくろいハウスに入っている方の4割はなんらかの障がいを持っている人であり、ゆうりんクリニックに通院する人も多い。アパートに入居した人はこれまで60人、その後も孤立化しないよう居場所作り、一部仕事作りを提供している。これまで、ハウジングファースト東京プロジェクトがかかわって生活再建できたと考えられるのは116人、訪問看護の利用は32人、ゆうりんクリニック通院者数71人となっている。」

岩本氏:
「ゆうりんクリニック開院後、これまで71人をフォローしている。長期の路上生活を経験した方、高血圧、排気ガスなどが影響しているとみられる肺疾患を持つ方、精神疾患を持つ方、医療につながる必要がある方など。精神疾患がある方にとっては他の医療機関とは違うかかわりができるクリニック。」

向谷地氏:
「べてぶくろのグループホームでは、公的な福祉制度にのせて、そこからつくろい東京ファンドと連携してアパートに転宅してもらう。グループホームから卒業して終わりではなく、OB支援を続けている。」

大切にしていることを教えてください。支援のゴールは?
小川氏、高桑氏 小川氏:
「ひとりひとりの個人に敬意を持つ、ここからはずれないこと。その人を知ること、そこからハームリダクションを考えていく。ハウジングファーストは住まいが基本なんだけれども、継続性が大切。管理することに対して、利用者は恐怖感、不安感がある。病院であろうが刑務所であろうが、ハウジングファーストはどこにいこうがくっついていく。基本的には本人からもういいといわれるまで。支援と住まいは独立している。」

稲葉氏:
「小川さんのお話と思いは一緒なんですが、現実的な制約に悩んでいる。路上から恒久的にアパート住まいにいくのが理想ではあるが資金が限られているため、借り上げ住宅が揃えられない。施設を運営する側としては、安全性を考えると多少の規則も必要であるし、待っている人がいれば出てもらわなければならないこともあって、完全に本人の気持ちに寄り添うことが体制的にできない。リソース、資金の限界もある。ずっと支援していきたいが、そこが悩ましい。失敗は確かにチャンスであり、ステップを一歩踏み出すことになるが、それを許容する社会や環境がありき。いかに地域社会を巻き込んでいくかが課題。」

向谷地氏 向谷地氏:
「当事者の経験は貴重、当事者の経験から学ぶことがたくさんある。自己の意思決定の尊重、干渉をどこまでするのか?の判断にピアワーカーの力は大きい。活動に重要であり、その存在は大きい。」




岩本氏:
「ゆうりんクリニックでは、オープンダイアローグ、投薬中心ではなく、いかに対話することを大事にしている。医師だけでなく看護師、ソーシャルワーカーが直接患者さんに向き合う時間を大切にしている。」

栗田氏:
「住環境の大切さはもちろん、依頼者との関係性の構築、たとえそれが掃除であっても、支援が欲しいと声をあげてもらえる関係性がまず大切、1回の支援だけでなく継続した支援になることが多い。住環境はその人の状態を表す目安にもなる。」

高桑氏:
「月2回の青空診療、平均年齢60歳の相談者への診療補助するなかで、支援に結びつかない現状がある。その人たちのニーズを聞くことが一番大切だと思っている。
一人の人として話を聞く、聞ききることを実践しているのがHF東京プロジェクトだと思う。そうするとその人は変わってくる。」

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思いを聞く、話を聞くということを自身の活動と照らし合わせて、どう感じましたか?
ポリーヌ・ロンテ氏:
「リサーチの経験から言って、ハウジングファーストはシステムが中心ではなく、人の話を聞くことが中心かもしれません。ただそれは、特にコミュニティ統合する形のタイプのものであれば、全く違うアプローチ、ツールを用いていることがあり、時に個人を中心にしたものでない既存の支援アプローチに対し暴力的になることがあります。既存アプローチがマイナスではない、必要であることをまず理解していなくてなりません。」

サンドリン・ビュタイェ氏 サンドリン・ビュタイェ氏:
「7つの団体が一緒になってハウジングファーストを推進していることは素晴らしいと感じました。既存の支援システムを否定するのでなく、協働していける形になっているのではないか。リカバリーをしてきた人は自分の経験を語ろうとしてくれる、それは私たちに豊かなものをもたらしてくれる。当事者が語ることが一番有効だと思う。それを大事にしていってほしいです。」

渡邊氏:
「役割分担ではなく、協働する、かかわっている、なんですね。それと同じように福祉事務所や地域社会に働きかける、アクセスしていくことが大切だと思いました。ピアワーカーの存在、登場の大切さをより感じられました。」

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大阪、東京で、それぞれのソーシャルインクルージョンは?との問いかけがありました。

ポリーヌ・ロンテ氏:
「ちがう環境の人たちに理解してもらうこと、リカバリーに携わる業務の半分以上がソーシャルインクルージョン。多くの申請業務において権利を守らせる、利用者の側に立つこと。ピアワーカーの存在はソーシャルインクルージョンの大きな証。」

サンドリン・ビュタイェ氏:
「利用者に対するレッテルがなくなること、私たちの仕事はそれら偏見や刻印をなくすことだと思っています。福祉事務所に同行すると、職員が申請者の顔ではなく私の顔を見て話します。そのたびに私は傷つきます。誰もが同じ1人の人間で、それを理解してもらうこと。」

齋藤氏:
「福祉は責任を持つこと、継続すること。担い手が責任をもって、福祉を継続的に行っていくことで、ソーシャルインクルージョンの実現がなされるのではないか、そう思います。」

原氏:
「それぞれの人を大切にするかどうか、ということだと思います。社会から排除するパターンもあれば、社会の中で管理するというパターンもある。これは大事にしていない。ハウジングファーストの反対が施設や病院収容だと思いますが、そうなると支援の対象ではなく、管理の対象という側面が強くなる。そうなると施設側の職員と当事者の関係が対等でなくなってしまう、ディス・エンパワメントの状態が起きてしまう。それはその人を大切にしていない。論理とか言葉のやり取りではなく、例えばハグするとか、感性的なことが大事になってくると思います。」

高桑氏:
「自分とは異なる環境に育った人、いる人を認めること、尊重する、理解することなのかなぁと思いました。池袋で今私たちが行っているのは、その人の肩書きや仕事の鎧を脱ぎ捨てて、人対人の関係性を大切にしていることです。いろんな立場の人たちの存在を認め合うことが大切なんですね。」

小川氏:
「当事者の方も私たちとかかわることで社会と出会う、必ずどこかでつながりができること、それがまずひとつ、それとその人に既存の社会に入ってもらうだけではなく、環境、社会が変わることでソーシャルインクルージョンが実現することもあるんだと思います。」

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住まいは人権、住居の質も重視されなければならない、そして、支援にあたる自らもチームも健全でなくてはならない、そのためにチームで共有することが大切。
すべての講演で共通していたこと、それは一貫して話すこと、対話すること、一人の人間として互いを尊重することでした。
支援が継続することで、小さな変化に気付くことがある。そのチャンスを捉える関係性の構築。
そして副題のとおり、まさに「失敗するチャンスはある」。ハウジングファーストを実践する側にとって、相手が当事者であっても、ケースワーカーであっても、大家さんであっても、ご近所さんであっても、同じ支援者であっても、トライ&エラーの繰り返し、その積み重ねだということ。
そこからソーシャルインクルージョンが始まるのではないでしょうか。




シンポジウムでは、ご出席された皆様より多くの質問、ご意見をいただきました。当日、お答えすることができず、また複数の方からいただいた質問について、こちらにて回答を掲載させていただきました。

Q1.
ハウジングファースト東京プロジェクトでは、提供できる住居があった場合、どのようにして入居していただく方を決めているのでしょうか?


A.

アウトリーチの現場に出るワーカーが、長期の路上生活者で既存の支援に最もつながりにくいと思われる人にこちらから声をかけて、本人の希望があった場合に入居していただいています。

Q2.
サンドリンさんに質問です。長期の路上生活者、依存症患者、精神障がい者のなど比較的により多くの支援が必要とされる方以外の人は、ハウジングファーストの支援対象にならないのでしょうか?


A.
ブリュッセル市には、ホームレス支援団体がいくつもあり、私たちのプロジェクトも複数の団体で構成されています。18-25歳の若者、女性、路上生活1年未満、などカバーする層がそれぞれ分かれており、いずれかの支援カテゴリーにあてはまる。私たち「路上の看護師たちInfirmiers de rue」は路上生活10年以上の、もっとも住まいから遠いとされる人たちを支援しています。

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