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世界精神保健デー:目に見えないこころの傷のケア

10月10日は、世界精神保健デーです。今、世界のあらゆる場所で、メンタルヘルスの静かな危機が広がっています。夜中鳴り止まぬ砲弾の音、今にも沈みそうなゴムボートで海を渡った経験、突然襲ってきた自然災害など、世界のあらゆる場所で人々のこころを傷つける事態が発生しています。この日に寄せて、世界の医療団が世界各地で実施しているメンタルヘルスケア活動の一部をご紹介します。

世界の人口のおよそ半分は、精神科医が人口10万人あたり1人以下しかいない国や地域に暮らしています。ギリシャ・ヒオス島のキャンプに滞在する難民の3分の1は、自殺を目撃した経験があります。シエラレオネでは、たった2人の精神科医が、エボラ大流行のあとのショックと深い悲しみに立ち向かっています。

世界各地の危険で困難な場所で支援を実施している世界の医療団の医療チームは、素晴らしい心理学者や精神科医とともにチームを組んで活動しています。世界精神保健デーに寄せて、私たちは彼らに日頃の感謝の気持ちを表し、目に見えないこころの傷のケアという彼らの仕事のいくつかを、ここで紹介したいと思います。



日本


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2011年3月に発生した東北地方を襲った地震と津波、そして福島第一原発事故、未曾有の大災害により今も避難を続ける人は8万4千人(出所:2017年9月復興庁)、福島県の被災地では原発事故の避難指示解除が相次ぐなかで、地域や人々は新たな局面に立っています。事故によって、住まいやかつての暮らしを失い、翻弄され、数年かけてやっと築いたコミュニティも、避難解除に伴いまたも失ってしまいました。また被災地では家族分離による高齢化が著しく、避難指示解除から数年経ち一定数の住民が帰還した現在も、高齢化率は50%以上や近くを占めています。被災地において被災地住民のこころのケアは時間が経過した今だからこそ、より必要ともいえる状況です。震災から6年半、医療・保健・福祉人材が不足するなかで、世界の医療団は現地のパートナとともに帰還した住民へののこころのケア活動を今も続けています。


またハウジングファースト東京プロジェクトでは、住まいを失った方の多くに生きづらさを抱える人がいる現状から、2010年よりホームレス状態の人々の精神と生活向上プロジェクトをスタート、障がいがあっても地域で共に生きることを理念に、日々活動にあたっています。



ギリシャ


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6万人以上の難民が滞在するギリシャ。トルコへの帰還か、または、ヨーロッパにいる親戚を頼りに入国許可を得られるかどうかを判断されている間に寝泊りする難民キャンプは、安全が確保されておらず、非常に不健康な状態です。実際、2016年にEUとトルコの間で結ばれた協定は、主張と訴えが未処理のまま、難民たちをギリシャの島々に留まらせています。


難民の男性も女性も子どもも、こころの問題を抱えており、自傷行為、自殺企図、うつ、攻撃性、不安などに苦しんでいます。世界の医療団の心理学者は、難民キャンプにおいて、人々のニーズに応じ、1対1またはグループセッションによるケアを行っています。



ウクライナ


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ウクライナ東部の“コンタクト・ライン”付近の町は、3年に及ぶ紛争の最前線にあり、夜間も絶えず砲撃の音が鳴り響いていました。多くの若者たちがこの地域から逃れて行きましたが、親の世代や高齢者はそのようにはいきません。ゴーストタウンとなったこれらの町では、不安やパニック障がい、不眠症に苦しむ人々が孤立しています。


世界の医療団イギリスは、2015年からウクライナ東部ルハンシク州において活動を開始しました。心理学者が移動クリニックで村々をまわり、村で出会った写真の女性、ルドミラのように、紛争により神経が衰弱している人々のケアにあたっています。「心理学者にこころを打ち明けたら、私は救いを得たように感じました」と彼女は言います。



ネパール


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2015年、ネパールをこの100年間で最も大きな地震が襲い、8,500人以上が犠牲となりました。最も被害の大きかったシンドゥパルチョーク郡では、その後2年が経過しても、地元の女性たちがいまだ地震による心理的影響から立ち直ることができていない人々へケアをしています。この村々の女性たちは、メンタルヘルスと飲酒の問題は増加傾向にあると言います。多くの人々はいまだ壊れた家を修復することすらできず、新しい生活を始められずにいます。


世界の医療団のメンタルヘルスチームは、これらの村々でアウトリーチ活動を実施しています。また、それと同時に、マイクロクレジットプロジェクトに参加している地元の女性たちへのワークショップの開催、保健所の建設、カウンセリングなども実施しています。



イギリス


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2017年6月のグレンフェルタワーの火災後、生存者や近隣の人々、約600人がカウンセリングを必要としていました。そのうちおよそ100人は子どもたちでした。


世界の医療団は、ケアを提供する支援者たちが自らの精神的健康を保ち、支援を必要としている人々へケアを提供できる状態にするため、2つの“セルフケア”ワークショップを開催しました。“セルフケア”とは、報告には上がってこない問題であり、ケアを提供する支援者たちは、自らのこころの健康を守らないまま他人の悲しみに向かい合うと、燃え尽きてしまう傾向があるのです。



レバノン


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レバノンの人口は、およそ5人に1人がシリアから逃れてきた難民です。難民の多くは、故郷でのトラウマ体験を経て難民キャンプで暮らしています。しかし、レバノンにおける精神保健サービスは、ほとんどが民営化され、首都ベイルートに集中しており、さらに専門家の不足に悩んでいます。結果、PTSD(心的外傷後ストレス障がい)のような症状に苦しんでいる難民たちに、手を差伸べられる状況ではありません。


世界の医療団の心理学者たちは、ベーカーバレーにおいて、多くの子どもを含む難民たちのこころのケアを実施しています。また、レバノン政府とも協働し、首都ベイルートの公立病院において、初めてのメンタルヘルスユニットを立ち上げました。



世界の医療団の医療チームは、世界各地の危険で困難な場所において、傷ついた人々のケアにあたっています。

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