©Olivier Papegnies

イラク:現地からの証言

モスル解放となる数ヶ月前、2年もの間ISISの囚われの身となり、地獄から逃れてきた22歳のハイファ。
「これまでの2年は、もはや人間ではなく奴隷だった。私の所有者となった人物全員から虐待を受け、レイプされました。水も食べ物もなく、窓のない牢獄のような場所で過ごす日々の1分は、1時間のように感じられた。太陽を見ることはなかった。」

2014年からこれまでイラク、クルド、ヤズィーディー、アッシリア、アラブの人々が迫害を受け、爆撃や攻撃で住む家を追われ、避難民となりました。その多くが占領、処刑、斬首、レイプ、虐待、家族や親しい人の死など、人間として耐え難い経験をしてきました。

MdMのイラク担当コーディネーターAmélie Courcaud


「悲劇的な状況を逃れた人々は、大きなトラウマ(心的外傷)を負っています。イラクで今、一番必要とされているのはメンタルヘルスケアですが、その供給はニーズに全く追いつかず、イラクの人道的課題のひとつとなっています。世界の医療団(MdM)が診療した人のほとんどが不安、睡眠障害、うつ病、心的外傷後ストレス障害に苦しんでいます。メンタルヘルスケアのニーズは計り知れなく、人々が抱える傷も深い。」
「MdMでは、通常、患者と同じコミュニティの人をメンタルヘルスケアを行うスタッフとして採用します。それは支援する側も同じ立場であったり、同じ経験をしていたり、患者との信頼関係が構築しやすいためです。深刻なケースは精神科医の診療が必要となりますが、ここではこれまで以上に精神科医療のスタッフが足りていません。」

イラク:現地からの証言

長期的な支援


イラク国内ではいまだにメンタルヘルスケアをタブーとする人が数多くいます。「今もこれからもメンタルヘルスが必要とされる中で、その偏見をなくすための活動を行わなくてはなりません。」

窓が壊れたその家で、Bashraは古いカーペットが敷かれた床に座り込んでいました。シンジャールにあるここBorekは2015年、ISISの侵攻を受けました。2年ぶりに我が家へ戻ってきたのです。2年の間避難民となった彼女は今、帰還民となりました。飲料水もありません。Borekでは静寂が鳴り響いています。
「自分の家がまだここにあることはうれしい、けれど全てが変わってしまった。」
自由を得ることはできたけれども、果てしない暴力が人々の精神を傷つけ、蛮行は人々の心に恐怖を植え付けました。紛争によって大きく引き裂かれたこの国の復興には、長い年月を必要とします。
MdMは帰還した住民のためにBorekにクリニックを開設、メンタルケアを中心とした医療支援を行っています。


医療人材がたりない


MdMイラク・ドホークに駐在する医療コーディネーター エドムンド医師

「イラクではもともと精神医療の人材が少ない。クルディスタン地域では、200万の人口に対し5人の精神科医、2人の心理カウンセラーのみ、人材育成も行われていません。
紛争が家族、社会を揺るがし、イラクの人々はストレスや不安が生まれる原因さえも特定できずにいます。必要とされるものがここにはありません。次世代へと続く持続的な人道支援が今すぐ必要とされています。」

現在、MdMはキルクーク、ニネヴェとドホークにて、医療支援活動を実施しています。

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