ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)をめぐる新たな動き
来る12月6日に、東京にてUHCハイレベルフォーラムが開催されます。これは日本政府、世界保健機関(WHO)、世界銀行の共催によるもので、世界各国の保健医療ならびに財務関係者が参加します。
今回この場で、「UHCナレッジハブ」の設置が発表されます。UHCナレッジハブは、日本政府とWHO、世界銀行が立ち上げ、各国の保健省と財務省の政策立案者の能力開発を支援する目的でつくられました。昨今、保健医療にかかわる国際資金の拠出は減少しており、低・中所得国が援助国からの資金への依存を減らし自国の資源を最大限に活用し、保健財政を強化することは喫緊の課題です。このナレッジハブは、各国の知見や経験を共有しつつ、保健財政強化のための人材を育成し、進捗の遅れが目立つUHCの達成を推進しようとするものです。最初の研修対象国は、カンボジア、エジプト、エチオピア、ガーナ、インドネシア、ケニア、ナイジェリア、フィリピンの8ヶ国です。
ナレッジハブと並行して、日本政府、WHO、世界銀行が中心となって推し進めた「国家保健コンパクト」も発表される予定です。これは、世界銀行が主導する、2030年までに15億人に質の高い手頃な価格の医療サービスを提供できるよう各国を支援するという野心的な計画「ヘルスワークス」の実現のためのもので、21ヶ国が策定に参加します。政府主導で、すべての国民が手頃な価格で質の高い医療が受けられるよう、大胆に改革を行い、投資の優先順位をつけ、関係者の責任分担を明確にする合意書が作られます。
これらの動きの背景には、2030年までのUHCの達成目標にはほど遠い世界の現状があります。紛争、自然災害の増加、景気後退、物価高騰、高齢化などの課題を抱え、保健医療サービスへのアクセスが限られています。WHOによると、約20億人が経済的困難に直面、そのうち10億人が家計破綻的な医療費の自己負担を経験しており、3億4,400万人が医療費のために極度の貧困に陥っていると報告されています。
今年の12月12日のUHCデーのテーマは「高すぎる医療費、もううんざり!(Unaffordable health costs? We’re sick of it!)」であり、増大する医療費負担への不満を代弁するものになっています。
たとえば、世界の医療団の活動するラオスの山岳地帯では、病院が遠く、受診のためのガソリン代も医療費に加えて負担になっています。国の政策として、貧困のために受診を控えることがないような仕組みづくりが必要です。
世界の医療団と市民社会の対応
世界の医療団はUHCを推進するCSEM(The Civil Society Engagement Mechanism for UHC2030)のアドバイザリー委員を務めています。また、日本政府とNGO/NPOの対話を担うグローバルヘルス市民社会ネットワークの幹事団体の一つです。
今回のハイレベルフォーラム開催にあたり、他団体とともに市民社会の提言を作成し、日本政府、WHO、世界銀行に提出しました。提言の作成から提出まで10日ほどでしたが、140ヶ国の賛同署名を集めることができました(賛同団体リストはこちら)。
提言書では、市民社会として、「ナレッジハブ」設置と「ヘルスワークス」について歓迎したうえで、それらが十分に機能し、より多くの成果を得るものとなるよう下記の点を組み込むよう要請しました。
ナレッジハブについて
1. 研修プログラムの策定に対象国で国別コンサルテーションを開催し、対象国の市民社会や当事者コミュニティなど広汎な関係者の参画を。
2. 現場で人々のニーズに触れ、ニーズを政策に反映する方法を学ぶプログラムの導入を。
3. 研修後に、UHC達成のためのプログラム支援と、UHCの進捗をはかるモニタリング・評価の導入を。
4. UHCナレッジハブの運営に、財務・保健連携の模範となるようなガバナンス体制の構築を。
5. すべてのフェーズにおいて、市民社会をはじめと留守「社会参画」の導入を。
2. 現場で人々のニーズに触れ、ニーズを政策に反映する方法を学ぶプログラムの導入を。
3. 研修後に、UHC達成のためのプログラム支援と、UHCの進捗をはかるモニタリング・評価の導入を。
4. UHCナレッジハブの運営に、財務・保健連携の模範となるようなガバナンス体制の構築を。
5. すべてのフェーズにおいて、市民社会をはじめと留守「社会参画」の導入を。
ヘルスワークス/国家保健コンパクトについて
1. 公平性の原則と「誰一人取り残さない」という理念に基づき、最優先とすべき事項を設定し、活動を展開する。これは、プライマリー・ヘルスケア(PHC)モデルによる提供体制と、医療費の自己負担による経済的困難から最も脆弱な人々を保護する仕組みを通じて、最も効果的に達成できる。
2. 研修プログラムや国家計画の設計・実施に社会参画を組み込み、市民社会やコミュニティを、意思決定における対等なパートナーとして確実に実質的に包摂する。
3. 国レベルでのUHC進捗状況を監視するため、細分化されたデータの収集と活用を支援する。
4. 現地の人々、特に人道状況下にある人々や、公衆衛生サービスから疎外された人々のニーズを反映する。
5. 保健部門と財政部門の強力な連携を促進し、透明性と説明責任を推進する包括的なガバナンス構造を確立する。
2. 研修プログラムや国家計画の設計・実施に社会参画を組み込み、市民社会やコミュニティを、意思決定における対等なパートナーとして確実に実質的に包摂する。
3. 国レベルでのUHC進捗状況を監視するため、細分化されたデータの収集と活用を支援する。
4. 現地の人々、特に人道状況下にある人々や、公衆衛生サービスから疎外された人々のニーズを反映する。
5. 保健部門と財政部門の強力な連携を促進し、透明性と説明責任を推進する包括的なガバナンス構造を確立する。
12月5日には、UHCハイレベルフォーラム院内集会、12月7-8日には、UHC2030の運営委員会、12月10-11日には、ユニットエイドの理事会など、12月6日のハイレベルフォーラム開催に合わせて、さまざまな保健会合が開催されます。
UHCのめざす「すべての人々が、経済的な困難なしに、必要な時に、必要な場所で、ニーズに応じた質の高い保健医療サービスに十分にアクセスできること」が実現できるよう、他団体とともに関係者へ働きかけていきます。
