フィリピンでの2つのプロジェクト視察~台風被災地支援と電化製品廃棄物処理支援~

世界の医療団日本の事務局長畔柳奈緒です。(筆者は写真一番下の右側です)今回は、4月に訪れたフィリピンでの二つのプロジェクト、台風30号の被災地支援とマニラでの電化製品破棄物処理を起因とする健康被害を抑制するためのプロジェクトについて、その視察報告を致します。

フィリピンでの2つのプロジェクト視察~台風被災地支援と電化製品廃棄物処理支援~
被災地支援は、日本の支援者からも多くご支援を頂いたため、その成果を実際に見に行きました。同時にマニラのプロジェクトは、健康被害となっている廃棄物を「輸出」している日本として、今後の世界の医療団日本の緊急支援活動の参考とするため、このプロジェクトで果たすべき役割を探ることが目的でした。両方とも、世界の医療団フランスが実施しているミッションで、世界の医療団フランス事務局長に同行する形で視察は実現しました。

・台風の被災地支援ミッションはいつ始まったのか

台風が昨年の11月8日にレイテ島を直撃しました。直撃前からフィリピンを大きな台風が通るということは分かっていたため、マニラの長期ミッションメンバーが動き始め、発生直後にはフランスやスペインからもチームが入って緊急ミッションが始まりました。その緊急ミッションが5月15日に正式に終了しました。私が現地に行った時はミッションの最終フェーズでした。

フィリピンでの2つのプロジェクト視察~台風被災地支援と電化製品廃棄物処理支援~
・多くの支援団体の中で、世界の医療団の支援方針とは
私たちは、全体のニーズやリソースを見て、自分たちがどこでどのような活動を行うべきかを見極めました。被害が集中したのは、死者6,000人以上のうち大半を出したレイテ島タクロバンで、支援もまたタクロバン周辺に集中していました。私たちはそこにリソースを更に追加するのではなく、医療が提供されていない他の場所に支援しよう考え結果、タクロバンから陸路2時間以上かかる4つの地域(サンパブロ・イピル・アルブエラ・カリガラ)で活動することに決定しました。この地域では私たちと同じような活動を提供している医療系支援は、ほとんど皆無と言っていいほどでした。

フィリピンでの2つのプロジェクト視察~台風被災地支援と電化製品廃棄物処理支援~
・世界の医療団3つの具体的な施策
基本的には大きく、モバイルクリニック(医者や看護師からなる5名程度のチームを派遣して必要な治療をする活動)、リハビリテーション(崩壊した建物の修繕事業)と物品の提供(40トンの医療物資支援)、3つ目がトレーニング(医療ノウハウの共有)という、3つの活動をしていました。中でも、トレーニングは、私たちが支援を終えた後に成果が継続させるものであり、長期支援活動に力を入れている世界の医療団の象徴的な取り組みでもあります。

トレーニングは、IMCI(子どもの病気に適切な管理や対処する手法)やメンタルヘルスなど様々な手法で、医療ノウハウを提供しました。例えばメンタルヘルスは、基本的に精神科医が足りていないため、お薬がなかったりリファラル(患者を病院へ引き渡す)システムがあっても機能していなかったりするので、日本から精神科医が現地に入り、対象者をモニタリングしたり、その対処方法などをヘルスセンターのスタッフにトレーニングしました。

また、モバイルクリニックの活動を通じ、現地では血圧を測る習慣がないこと、潜在的な高血圧症の患者が多く健康管理の問題につながっていることが露見しました。そこで、高血圧症についての知識や生活習慣の改善のためのノウハウをヘルスセンターのスタッフにシェアすることもしました。

フィリピンでの2つのプロジェクト視察~台風被災地支援と電化製品廃棄物処理支援~
・緊急支援の終了
台風直撃当初から始めた緊急支援は、私が滞在している時に終了のセレモニーが行われ、その全てが閉じられるところでした。あとは、現地でトレーニングしてきたことが、多くの人々の健康に役立つことを祈ります。

・マニラの電化製品廃棄物処理が健康と環境に与える影響
2012年に4年間のプロジェクトとして立ち上がり、今2年が経とうとするところです。背景として、電化製品が安全ではない方法で解体されるという現実があります。解体作業をする中で有害物質を体内にとり込んでしまうばかりか、周囲の環境を汚染することで解体をする本人だけでなく、周囲の住民、特に影響を受けやすい乳児、成長期にある子どもたち、若者、妊産婦などの健康にも多大な影響をあたえると考えられています。こうしたリサイクル業者はマニラの色々な地域に分布しています。こうした人たちの収入源、生活の基盤が廃棄物処理にある以上、彼らの経済活動の中で健康や環境により配慮した実践が導入され、定着することがこのプロジェクトの最終目標です。

フィリピンでの2つのプロジェクト視察~台風被災地支援と電化製品廃棄物処理支援~
・世界の医療団が目指すこと
4つの地区(カプロン、ロンゴス、バゴン、サン・ヴィチェンテ)に支援をしていて、それぞれ状況が少しずつ違うのですが、ミッション終了予定の4年後には現地の人自身が団体を走らせ、行政も巻き込んで安全なリサイクル業をしていくための取り組みをしています。今年、ようやくそれぞれの地区で自治組織が設立されました。設立総会を行い、選挙で理事長や会計係など役員を選出したのです。既に行政への登録も済ませて正式な団体として認められたところもあります。

自治組織への参加率は場所によって違い、地区の業者のほぼ全てが加入した地区から、3分の一程度にとどまっている地区もあり、組織だけでなくそれぞれの地域社会の活性度や成熟度、また貧困の度合いなどにも比例していると考えられます。全体で本プロジェクトへの参加者は解体業者とその家族も含め2000人強、ヘルスワーカーは32名です。

・活動の3つの柱:健康被害の軽減、コミュニティのエンパワメント、良質の医療サービスの構築
設定している成果は上に掲げた3つです。具体的な施策としては、例えば、1つ目の「健康被害の軽減」には安全性の確保として、有害物質との直接的な接触を避けるための手袋やゴーグル等を提供したり、危険性についてのレクチャーなどを行ったりしています。二つ目の「コミュニティのエンパワメント」は、前述の自治組織の設立を促し、安定した運営ができる状態にまでサポートすることを目指しています。その一環として「クリーニングデー」という日を設けて、メンバーが同じTシャツを着て、自分たちが住んでいる地域をボランティアで清掃するというアクティビティを行っています。地域によっては女性グループを作ったり、子どもがグループを作ったりするところもあります。そして、地域の医療施設でも啓蒙や教育活動を行い、関係の行政や区長・市長への働きかけを行うことで最終的に「良質の医療サービス」が提供できるような環境を作っていきます。

・プロジェクトサイトはこんなところ
このプロジェクトが対象としている解体業者の人々はフィリピンでは社会的にも経済的にも底辺かそれに近い人たちで、彼らの住む地域に外部からの関心や支援が長期的に入ることはあまりないのが現状です。一般の旅行者がふらりと訪れるような地域では絶対になく、以前、別の要件でマニラに渡航したことのある私も今回、初めてこれらの4地域に足を踏み入れました。

幹線道路をマニラ中心部から北に進んでいくと、突然道路の片側に1ブロック数百メートルに及ぶ瓦礫の山が出てきました。瓦礫やゴミの間には老若男女が作業をしているようでもあり、拾い物をしているようでもありました。聞けば、この一帯は最近、「強制退去」を受けていて、住民は退去させられ、建物は中途半端に破壊され、そこでうごめいていた人たちは、瓦礫の中に残る多少なりとも価値のありそうなものを探していたのです。中には小さな子どももいました。大きなゴミの嚢を抱え、大人に混ざって働いていました。

・危険な解体作業、生きて行くための手段
2つの地区では作業中の様子も見させてもらいました。その内の一つでは、車も人も往来の激しい2車線の道路の脇が作業場でした。家庭用電化製品の一部と思われる部品をハンマーで何度も叩き、中から金属、銅線などを抜き出しては仕分けしています。以前に世界の医療団がグローブやマスクなどを配布したのですが、着用している人は見ませんでした。「ああ、もらったものは大切に使っていたけど、壊れて全部使えなくなってしまったんだ」とリーダー格の男性が説明してくれました。「また新しいものが欲しいけど、自分たちで買うお金はないんだ」と。この地区では、朝、”ジャンクショップ”と呼ばれる廃棄物買い取り業者から有料でリヤカーを借ります。廃棄物を探して回り、拾得物があれば持って帰ってきて道路の脇で解体、夕方にはジャンクショップへ売りにいくのです。リヤカーのレンタル料が差し引かれ戻ってきたお金が1日分の労働の対価、収入になるのです。多ければ10ドルを稼ぐ時もあり、少なければ数ドルにもならないそうです。

・「世界の医療団がいなくなったらどうするんだ」

こうした地区の中に世界の医療団が活動する4つの地域もあります。これらの地区に住む人たちは、社会調査のために外部の専門家などからインタビューを受けたり、写真を撮られたりすることはあっても結局、具体的なアクションには結び付かない、という経験を繰り返ししています。外部から来る人たちを「興味本位で自分たちの生活をのぞきに来る」という否定的な感触を持っている人も多かったと聞きます。世界の医療団も初め煙たがられていましたが、地道なアプローチを続け、プロジェクトを開始し、自治組織の設立にまで至っています。視察をした4つの地区で自治組織との会合で、質疑応答の一番最初に「世界の医療団がプロジェクトを終了する2年後、自分たちでやっていけるのか不安でたまらない」というセリフがまず飛び出すほどの信頼を寄せてくれています。また、4つの地域の内の1つは、政府による強制退去を受け他の地域から移住してきた人が済む場所で、彼らは隣人同士、顔は知っていても交流はない状態だったものが、世界の医療団の支援活動を契機に「仲間」となることが出来たと聞いています。

・今後の支援において、日本から変えていきたいこと
フィリピンで処理される電化製品は日本や韓国、中国などの周辺国から輸入されてくるものが多く含まれています。私も訪問中、多くの日本製品を目にしました。日本で使用された電化製品がフィリピンに流れ、健康と環境に害を及ぼしているのであれば、その元となっている日本でこそ、できることがあるのではないかと考えています。

一般の方々にこの現状を伝え、知ってもらい、理解してもらい、何かしらのアクションに参加してもらうこと。または、電化製品の中に人体や環境に有害な物質を極力使わないことをメーカーなどに働きかけたり、または安全なリサイクルのために協力を依頼したり、などです。日本は製造する技術ももちろんですが、健康被害、環境対策などの研究や対策についても進んでいますので、世界の医療団フィリピンのチームと供に日本の高い技術が直接、プロジェクトに貢献できる方法も模索していきます。

ここまで読んで下さった皆様にはその時間、そのご関心に感謝し、世界の医療団日本の今後の活動の展開にどうぞ引き続き注目して頂ければと思います。

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