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ハイチは今、地震発生から2年

壊滅的な地震によってハイチの首都ポルトプランスとその周辺地域が廃墟と化した日から2年の歳月が過ぎた。
メディアやソーシャルネットワークサイトが世界中に発信した映像を、我々は今でも忘れることが出来ない。
しかし積もり積もった破壊と苦しみの数々を改めて思い起こす必要があるだろうか、あの余りにも暗い記憶を。

ハイチは今、地震発生から2年一部の人々が「ハイチをもっと良い国に建て直す」チャンスと捉えるこの悲劇は、地震に襲われる以前からこの国に根を張る貧困を映し出す鏡の役割を果たした:縁故主義による政治腐敗、実質的教育制度の不在、1日の生活費がひとり1~2ドル以下の一般庶民や貧困層にアクセス可能な医療サービスの欠如、ハイチは既に国際社会の支援なしには立ち行かない状況に置かれていた。

2010年1月12日に起きたこの大惨事の犠牲者を救う為、世界中から寄せられた援助の手は迅速且つこれまでに例を見ないものだった。多くの個人からの支援金、とりわけ隣国アメリカの一般市民からの寄付金に支えられ、国際救援部隊による生存者の救助活動は前例のない規模となった。住む家も生活手段も全てを奪われて仮設のキャンプ生活を強いられ、職も無く最低限の社会保障サービスを受けることさえ出来ないながらも、被災者たちはこれまでの2年間、この国際的救援活動に支えられて生き延びてきた。

ポルトプランスだけでなく、他の農村地域でもこれまで続けられて来た基本的な支援プログラムは現在も継続して実施されているが、これは安定した秩序ある国家不在のため、やむを得ず国家に代わって、確実な国家再建計画の実現という仮想未来への期待を繋ぎとめる狙いがある。

何故ならハイチの場合、緊急時や新たに併発する緊急事態に対する短期的な解決策は、残念ながら長期化し、決定的にさえなりつつあるからである。ここに全てのジレンマが存在する。ハイチ国民はこれを良く理解し、幻想を抱くことをしない。「再建計画は十分に進展していない」と彼等は繰り返し口にする。彼等は、国を再建するのはNGOではないことを他の誰よりも良く知っている。その名に相応しい国際プランがなければ、何事も不可能だろう。しかし既に、支援国家のいくつかはハイチから目をそらし始めている。

我々支援チームが毎日目にするように、ハイチの人々は既に、自分の運命は自分の手に取り返す覚悟のようだ。ポルトプランスだけでなく、プチゴアーブやグランアンセの農村地域でも、人々は活力と決意をみなぎらせ、日々の困難を乗り越えて、目を見張るような勇気と努力で新しい未来を自らの手で築こうとしている。どんなに厳しい重労働と不安定な生活条件が待ち受けていようとも。2年経った今、彼らを称賛する時がようやく訪れた。

確かに人道援助活動への依存度は震災後も増え続けている。この事実を認めることは、ある意味でハイチ国民に決定力と行動力を回復させることであり、又、少しずつ再建の道を歩み始めたハイチ政府の肩代わりをすることを出来るだけ避ける意味もある。それは又、外国からの援助グループにとって段階的な撤退を受け入れることを意味する。たとえ時間がかかっても、感傷的になるべきではない;長期に亘って彼等の努力に付き合うことが重要である。外国からの人道援助の限界を知ることはハイチとその国民の未来にとって有益であり、持続的介入は必要だが、一時的でなければならない。世界の医療団は独自の活動を推し進めることよりも、たとえ控えめであっても、絶えず現地の医療行政機関と協力しながら支援を続けたいと願っている。


<数字が示す実態 >

2011年、MDMの医療チームによる診療と外科治療の件数はおよそ25万件を数えた。
毎週4,000人以上の患者を診察し(予防接種を含む)、その内、5歳未満の幼児の占める割合は55%、妊産婦の割合は11.5%だった。

5ヶ所の活動地域:ポルトプランス、西県、中央県、グランアンセ県、ニップ県

・西部地区
>ポルトプランス:対コレラ治療、プライマリーヘルスケア(基礎医療)、性感染症予防と妊娠出産医療、栄養失調症のスクリーニングと専門医療機関への照会、暴力犠牲者の救済と社会心理学的サポート

>ゴアヴィエンヌ(GoクJ・ienne)とレオガーヌ(Leogane)地域: 住民によるコミュニティー活動、衛生教育、コレラの予防と治療、プライマリーヘルスケア、性感染症予防と妊娠出産医療、栄養失調症のスクリーニングと治療、プチゴアブ病院の産科と小児科に対する支援

・中央県:地域住民と家族に対する健康増進及びコレラ予防活動
2011年、レオガーヌのおよそ6,000世帯を家庭訪問し、医療相談や診察を行った。

・グランアンセ県:プライマリーヘルスケア、栄養失調症のスクリーニングと治療、コレラの予防と治療
2011年、およそ22,000人が疾病予防活動の恩恵を受けた。

・ニップ県:コレラの予防と治療

寄付総額と出費額

2011年度、MDM国際ネットワークが受けた寄付金は総額6 328 000ユーロ( 8 467 180 ドル)に上った。
2011年1月1日から12月31日までの1年間、MDMによる出費額は7.200.000 ユーロ強(9 633 960ドル)で、寄付総額を上回った。その為2010年に集められた寄付の一部が2011年の出費に充当された。

チーム構成

2011年のチームメンバー
・ハイチ内に748名、その内95%がハイチ人
・海外からの派遣メンバー36名と現地ハイチ人712名


<2年後のハイチ>

地震から2年が経過した現在、世界の医療団は1989年以来ハイチで活動を続けて来た医療チームを総動員してハイチ市民の救援活動に当たり、その中で特に5歳未満の幼児と妊産婦に対する医療サービスを活動の中心に据えた:プライマリーヘルスケア(基礎医療サービス)、性感染症予防と妊産婦医療、暴力の犠牲になる女性の救済と社会心理学的サポート、以上はハイチにおけるMDM活動の重要な一端を占めている。

この年、MDM医療チームが治療した主な疾病は、呼吸器疾患、皮膚感染症、消化器(腸)疾患、水性下痢症状、貧血等であった。ゴアヴィエンヌ、グランアンセ、ポルトプランスでは栄養失調症のスクリーニングと治療にも特別な注意を払った。
2010年10月以降は、当時この島で大流行したコレラの感染拡大を抑えるため、各地でその予防活動と治療に力を入れた。


-> 拡大を続けるコレラ感染

コレラが流行し始めた2010年10月以降、ハイチ国民の50万人以上がコレラに感染した。2011年末に出された報告によると、コレラによる死者は6,900人に上った。MDMは、感染拡大の兆しが見えると同時に可能な限りの人材と資材を投入した。1年後、コレラの予防と治療は恒久的な活動としてMDMのプログラムの中に統合された。

2010年10月以降、MDMチームのもとで治療を受けたコレラ患者の数は 30 000人に達した。
MDM支援重点地域:ポルトプランス(ゴアヴィエンヌ地区)、ニップ県(ミラゴアンヌ)、中央県(ミレバレ、ラスカホバス)、グランアンセ県
– UTC(コレラ治療ユニット)15ヶ所
– CTC(コレラ治療センター)3ヶ所
– PRO(経口補水所)28ヶ所

+Carte avec zone d’intervention dクJ煙クJ援ations ?

専門家によれば、ハイチのコレラは、その地域固有の風土病に変わるまであと2、3年は伝染病として感染し続けるだろうとの予想である。一旦は流行が収まりかけた2011年、ポルトプランス、アルティボニート県、中央、北、西の各県で再びコレラ流行の火の手が上がった。首都に近い地域には多くの人道援助グループが活動しており、彼らの働きで早い段階に流行を食い止めることが出来たものの、グランアンセ県の様な孤立した農村地域は医療の面でも立ち遅れているため都市部の様には行かない。MDMに対して活動の継続が求められるのはこのためにほかならない。

ハイチにおけるコレラの致死率は全国平均で1.4%であるが、県によって大きな差がある。例えば、グランアンセ県の致死率4.1%、一方、ポルトプランスの致死率は0.7(*1)


MDMが実施するプログラムの目標は、伝染病の予防と治療のための活動にハイチの地域社会住民を参加させることで、これは感染症の拡がりを食い止める上で非常に重要な活動である:具体的には、住民の健康意識を高めるメッセージの広報、衛生用品キットの配布、感染病監視態勢の強化、専門医療機関への疑似患者照会、等の活動を行う。又、学校を利用して集会やワークショップを開き、感染症予防の情報を広める。同様の情報は地域のラジオ局からも発信される。 

*1参照: www.mspp.gouv.ht

この様な活動を進める上で、MDMはハイチの医療行政担当者や現地パートナー組織と密接な協力関係を築いてきた。この関係は既に20年以上に亘って維持されている。
こうして2011年9月、MDMはコレラ対策を国民の医療システムの一環とする計画において、ハイチ保健省(MSPP Ministry of the Public Health and of the People) に協力することになった。

公正な医療システムの確立
妊産婦と5歳未満の乳幼児に対する医療費の無償化を提唱


地震から2年が過ぎた今も、医療システムの再建計画は殆ど具体化されていない。計画の実現を遅らせる理由として、長期間に及んで行政機関が機能していなかった事や弱体化した公衆衛生環境等が挙げられる。
現在早急にやるべきことは、妊婦や5歳未満児を含む社会的弱者に対して、医療サービスへのアクセスの道を開きそれを保証することである。
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ハイチにおける5歳未満児の死亡率: 86/ 1000人
妊産婦死亡率: 630/100 000人(死亡率、罹患率、医療サービス利用率に関する調査、 2005-2006年 Emmus IVから)


妊産婦と5歳未満児に対する医療費の全額免除は、医療サービスへのアクセス手段の一つと考えるべきである。有効性が証明された例を挙げると:2006年から2009年までの間、MDMはグランアンセ県で人々の行動調査を行った際、住民の医療施設利用状況(利用頻度)の点で医療費免除の措置は医療現場に肯定的な影響を及ぼすことを確認した。2011年末、MDMチームはゴアヴィエンヌ地域で新たにプライマリーヘルスケア(基礎医療サービス)の費用に関する調査を実施した。 調査結果は、医療サービスへの無料アクセスを導入した医療制度の下では、医療財源の利用方法が他に比べて合理的であることを示した。

確かな戦略:ハイチ保健省(MSPP)は次第にその指導力を強め、医療分野の社会福祉活動並びに妊産婦や5歳児未満児の医療費無償化実現に力を注ぎ始めている、中でも特に:

> 医療分野の社会福祉を全国的に制度化する計画が国際ワーキンググループの下で立案、フランスの技術協力を得て進められている。

> プロジェクト� Manman ak timoun an SantクJ右#187; (母子医療プログラム):WHO/OPS(WHO 世界保健機構 / OPS パンアメリカン保健機構) の提唱により、カナダの財政支援の下で始まったこのプログラムは、ハイチ全土の60余りの医療機関における産科と小児科医療サービスを無料化し、これを順次プライマリーヘルスケアの医療機関にも広げようとするものである。

もし≪母子医療プログラム≫が、公平な医療システムの構築に向けた新たな第一歩であるならば、このプログラムはハイチの未来の医療システムを形成する重要な構成要素の一つとして位置付けられるべきであり、その為には長期に及ぶ資金の投入が必要になる。

医療の「無料アクセス」政策は、長期的資金に支えられ且つ正しい計画方針に基づいたものであれば、医療サービスへのアクセスを大幅に改善するだろう。

世界の医療団はハイチの全地域において、妊産婦と5歳未満児に対する医療費の無償化を推し進め、その法的枠組みを2012年末までに確立する方向で支援を行っている。ハイチ政府並びに国際支援組織は、最も弱い立場の人々が医療サービスに「無料アクセス」できるよう、必要な資金を早急に準備し、拠出することが求められている。

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