©Kazuo Koishi

住むところが変わっても、たとえ入院したとしても、当たり前の何かを失うことのない福祉

-土砂降りの医療相談会、相談にいらしたある男性のケースから感じたこと-

70代のその男性は、今年5月から心疾患で入院し、6月初旬に退院されました。
入院前から生活保護を受け中間施設に滞在していましたが、その後、別の中間施設へと移ることになりました。足腰が弱い男性は、転居した施設の自室への階段の上り下りがつらいことを訴えたものの、さらなる転居は認められず、そのまま路上へ。
男性はがんにも罹患しており、継続的な治療と投薬が必要でしたが、施設を「無断」退所したことにより生活保護は廃止。医療扶助を失い、治療を受けることができなくなってしまいました。困り果て、福祉事務所へ出向いて薬が欲しいと訴えるも、あなたの保護は廃止になっていますからと、とりつく島もない対応のみでした。残っていた薬は底をつき、不安になった男性は、先週の炊き出し生活福祉相談会へと足を運んでくれたのです。
診察にあたった医師は緊急に治療が必要と判断し、ゆうりんクリニックへと繋ぎました。

一度、医療に繋がったとしても、役所から「指定」された施設での生活に耐えきれず「無断」退所し、生活保護がなくなることで、治療が途切れてしまう現実。
福祉事務所にご自身で出向いて困ったと訴えているのに、施設行きとセットでなければ医療を受けることができないという不条理。
私たちのところに相談に来てくれて、本当に良かったと思います。 
ゆうりんで診察を受け、服薬もすぐに再開でき、ご本人の不安もいくばくかは解消できたように思います。
ひとまず、信頼できる団体のシェルターに入居していただくこともできました。

階段の上り下りがつらいことで、その施設には住めないと訴えた男性は、施設を変えてもらうことが叶わず、結果として、医療を受けることができなくなりました。今の日本の福祉制度では、医療と住まいはつながっている、それは教育も同じなのだと思います。包括的支援を謳う生活保護制度の周到さが裏目に出てしまったと言えます。
なにかが欠けるとすべて途切れてしまう制度。
住まい・居場所と同時に、医療からもはぐれてしまう、こういったケースをなくすためには、安心して過ごせる住まいをまず第一に提供する、私たちハウジングファースト東京プロジェクトのアプローチが活きてくると考えます。
住むところが変わっても、たとえ入院したとしても、当たり前の何かを失うことのない福祉政策が望まれます。

世界の医療団日本ハウジングファースト東京プロジェクト コーディネータ― 武石 晶子


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